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【ヒット商品開発秘話】累計出荷数500万本を突破したライオン「クリニカPROハブラシ ラバーヘッド」

2024.11.08

ヘッドと毛を金型で一体成型

 人工毛を使った歯ブラシはヘッドに空いた穴に毛束を植え込むが、『ラバーヘッド』はヘッドと毛を金型で一体成型する。ラバー素材の扱いに慣れていない上にヘッドと毛を一体で成型するという経験のない製法を採用することになったため、歯ブラシづくりの経験が豊富な同社といえども製造は非常に難しいものだった。

「毛先の太さが1ミリもないので、成型加工した毛先がちぎれたりすると口の中を傷つけてしまう恐れがあります。ヘッド部の成型加工は非常に神経を使うところです」と明かす青木さん。開発と並行して安定した品質で生産するための検討も実施。製造部門と研究部門が連携して安定した品質で量産できる技術を確立できたことも『ラバーヘッド』の開発を加速させた。

 素材や毛の形状がいままでの歯ブラシと異なることから『ラバーヘッド』用の品質基準をつくり評価方法を変えた。歯ブラシを手に持ってからみがき終えるまで行動をすべて洗い出して検討したという。

X上にあふれる熱量の高いクチコミ

『ラバーヘッド』は歯ブラシの中で1本約300円と高価格帯に分類される。今村さんは「高価格帯の商品であることを踏まえると、発売から1年未満で出荷数が500万本を超えることができたことはヒットだと捉えています」と話す。

 売れ行きが好調なことはユーザーの反応にも現れている。ビジネス開発センターCXプランニング ブランドコミュケーショングループの長岡結さんは次のように話す。

「『ラバーヘッド』は歯ブラシにしては珍しく、Xでの反応やクチコミが多いです。通常、SNSでは歯ブラシなど低関与商品(消費者の思い入れやこだわりなどが低い商品)に関する熱量の高いコメントを見かけることが少ないのですが、発売から現在に至るまで毎日のようにXで『使ってみたら本当にツルツルになった』といったコメントを多数いただいています。ブランドコミュニケーショの一環で2023年10月と2024年8月の2回、Xでキャンペーンを実施していますが、今後はUGC(企業側ではなく消費者であるユーザー側が制作・発信するコンテンツ。User Generated Contentの略)を生かしたコミュニケーションを実施していきたいです」

左から長岡結さん、青木優子さん、今村健一さん

 歯ブラシではなじみがないラバー素材を使ったことについては、時期によってターゲットや訴求する内容を変えた。

「発売当初はアーリーアダプターに向けて新奇性があることに的を絞ったコミュニケーションをSNSなどで実施し、まずは『面白そうだ』『手に取ってみたい』と思ってもらえることを心がけました。最近はまだ使っていない生活者向けに『いま売れている』といった、使ってみたいと思っていただける内容を打ち出すことにしています」と長岡さん。しかし、まだラバー素材が広く浸透しきったとはいえず、いまでも驚く人が多いそうだ。

他ブランドから多くのユーザーが流入

 同じく高価格帯に分類される『システマ ハグキプラスハブラシ』(以下、ハグキプラス)と『ラバーヘッド』はユーザー層が異なる。『ハグキプラス』のユーザーは歯ぐきの衰えが気になり始めた50代が中心だが、『ラバーヘッド』の主なユーザーは日々の歯みがきで少しでもうまくみがけた実感が欲しいと思った、より若い年齢層だという。

 売れ筋はヘッドがコンパクトなタイプ。『クリニカアドバンテージ』と同じ超コンパクトが一番売れるという当初の予想とは異なる結果となっている。このことについて今村さんは次のように話す。

「極薄ヘッドに極細ネックと設計が似ているので『クリニカアドバンテージ』を使っていただいているお客様が『ラバーヘッド』を選択することをある程度想定していました。とはいえ、予想外だったのが『ラバーヘッド』では超コンパクトではなくコンパクトが一番の売れ筋になったこと。それまで他ブランドの歯ブラシを使っていたお客様が、想定よりも多く『ラバーヘッド』を購入いただいている印象です」

取材からわかった『クリニカPROハブラシ ラバーヘッド』のヒット要因3

1.達成感が簡単に得られる

 ラバー素材はみがき方に左右されることなくツルツル実感が得やすいことも特徴。ツルツルになると歯がみがけた実感が持てるので、歯みがきではなかなか得にくい達成感が得やすくなる。

2.前向きな気持ちで歯みがきができる

 ラバー素材は従来の歯ブラシにはなかった、みがいている時の当たり心地の良さを実現した。みがき終わった後に得られるツルツル実感とあわせて、歯みがきをより快適な習慣にするツールになった。

3.売場で目立つ見た目

 歯ブラシは何を買ってもさほど見た目が変わらないが、ヘッドをラバー素材でつくり、見た目の印象を大きく変えた。売場に並べても目に留まりにくい歯ブラシを気になる存在に変え、従来体感できなかった良い効果を期待させることができた。

 扱い慣れていないラバー素材を使った歯ブラシづくりの技術を確立した同社だが、今村さんは、『ラバーヘッド』を『クリニカ』の柱に育てていきたいという。より市場での認知が進み売上を順調に伸ばしていけば、しなやかで立派な柱になりそうだ。

製品情報
https://clinica.lion.co.jp/product/pro_brush_rubberhead.htm

文/大沢裕司

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