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介護と仕事の両立を経て60歳でライフスタイルショップを団地にオープンするまで【セカステReal】

2024.10.14

子育ての終了、役職定年、親の介護、健康不安……。自分の「これから」に向き合うきっかけは、人それぞれ。連載【セカステReal】では、自分らしい生き方を模索し、セカンドステージに歩を進めたワーキングウーマンたちの奮闘、葛藤、感動のリアルストーリーに迫ります。

【セカステReal #️05】後編
植物と古本で地域の活性化を目指した、フラワーデザイナーの挑戦(たかはしさわこさん・62歳)

前編はこちら

Profile
神奈川県相模原市在住。大学卒業後、24歳で結婚。32歳の時にフラワーデザイナーに。2021年、「相武台団地商店街 グリーンラウンジ・プロジェクト」に応募し、2022年春、植物と古本を中心とした「green&books桜の棚」をオープン。

生徒さんに誘われて団地のプロジェクトに応募

60歳でライフスタイルショップをオープンしたフラワーデザイナーのたかはしさわこさん。親の介護と仕事の両立、そして団地のプロジェクトに参画し、セカンドステージに歩み出した経緯について伺いました。

──6年の介護ののち、お母様が64歳で亡くなられました。そのころからお仕事も忙しくなってきたのでしょうか?

たかはし:教室は常に新しい生徒さんが入らないと、先細りする。でも相模原は人口が流入してくる地域ではない。クライアントの仕事をもっと増やしたいと思っていました。すでに都内で3か所、定期的にディスプレイ用の花の注文を受けていたので、40代も後半になってきてここは一つ都内に拠点を持とうか、と。赤坂、神宮前、骨董通り、中目黒と場所を移転しながら、2010年くらいから約10年間、都内に教室兼作業場兼住居を持ちました。当時は相模原と行ったり来たりの生活をしていました。この時にいろんな人と出会ったことが大きかったです。コーディネートの仕事に繋がりましたし、自分の可能性がどんどん広がりました。

ただ、途中から父の様子がおかしくなってきて……。認知症の初期症状のまだらボケが始まったんです。人とはまともに話すし、徘徊するわけでもないので公的なサポートは受けられない。だけど昼間は一人にすると不安なので、相模原に留まることが多くなりました。フラワーデザインの仕事はクライアントの都合で動くことが多いから、都内にいないと仕事の注文も入らなくなってくる。このままじゃダメだなと思っていたら、コロナ禍になって……父の介護もあるので、都内の拠点を引き払って、相模原で腰を据えて仕事をすることにしました。

──それでこちらにお店を持たれたんですね。

たかはし:店の隣にあるカフェのオーナーさんが私の教室の生徒さんで、「グリーラウンジ・プロジェクトの募集が始まるから、応募すれば?」と声をかけてくれたんです。彼女の店はこのプロジェクトの1号店。教室兼作業場という拠点が確保できるし、また何か新しいことに挑戦したいなと思っていた時だったので、応募しました。

古本は店内ではだいたい500~300円で販売。店外にある3冊100円のコーナーは人気。

植物と古本を中心に置いた理由

──プロジェクトについてお聞かせください。

たかはし:「相武台団地商店街 グリーンラウンジ・プロジェクト」は神奈川県住宅供給公社が、シャッター街の進む商店街、そして少子高齢化の進む相武台団地を活性化しようと、2015年9月からスタートさせました。私が参画したのは、2022年の第6期です。商店街にはカフェや居酒屋、青果店といった商店だけでなく、学童保育などもあります。

──「green&books 桜の棚」という店名でもわかるように、たかはしさんは植物と古本を中心としたお店を開かれました。

たかはし:ちょうどそのころ近くの大型書店がなくなったり、図書館の分館がなくなりそうになったりした時期でした。書店の数は街の文化度のバロメーターともいうので、その動きに危機感を抱いていたんですね。だから私も長年この団地にお世話になってきたので何かできないか、と。また私は古いものが大好きなので、新しい本を扱うのはハードルが高いけど、古本屋さんならできるかもしれない、ということで、植物と古本を中心にしたお店ができれば、と思いました。

1ボックス1か月2000円で貸し出しているレンタルボックス。棚のオーナーは団地の住人やハンドメイドの作家さんなど。

──たった一つの枠にたくさんの応募があったと聞きました。選ばれるのは大変だったと思うのですが。

たかはし:書類選考はなんとか通過しましたが、その後、公社の方との面接があって……。アピール上手な方が一人いたので、なんとなく落ちたかなと思っていたんですが、店のコンセプトだけでなく、FacebookやインスタグラムなどSNSを以前から使っていたこともよかったのかなと思っています。

合格通知が来てからすぐに、父が亡くなりました。父が相模原を拠点にしろ、と呼び寄せてくれたのかもしれません。

この日は多肉植物を用いてのアレンジメントレッスンが行われていた。たかはしさんは一人ひとりの生徒さんに手取り足取り丁寧に教える。ワークショップは苔玉づくりが人気。

暮らしを豊かにするきっかけを提供したい

──店内も素敵ですね。

たかはし:私は古いものが好きだから、内装は問題なければ、元のまま生かそうと思っていたんです。以前、ここはお肉屋さんだったんですよ。私も子どもの頃、よく買いに来ていました。一方の壁だけが油でコロッケとかを揚げていたのか、ボロボロだったので、そこだけは左官屋さんに特注のペンキで塗ってもらいました。この青の色もお店の印象となるカラーなのでこだわりました。あとは工事現場風のライトをつけてもらったり……おかげで満足のいくものに仕上がりました。

──お店をオープンして3年。植物や本だけでなく、扱う商品も増えてきましたね。ワークショップもたくさん開催されています。

たかはし:このお店は「暮らしを楽しむ」がコンセプト。植物と古本が中心というのは変わりませんが、雑貨やused品なども扱っています。またレンタルボックスでは本だけでなく、ハンドメイド作家さんたちの商品も販売しています。

そしてここを拠点に、通常のレッスンだけでなく、朝活など単発のワークショップなどもやるようになりました。2階は書道教室やパソコン教室など、レンタルスペースとしても活用しています。学ぶ場としてどんどん浸透していければと思っています。

花は決して生活必需品じゃないけれど、その花を飾ることで玄関をきれいにしたくなったり、部屋の模様替えをしたくなったり、誰かを呼びたくなったり、人を呼ぶには素敵な食器がほしくなったり……この店でその人の暮らしが豊かになるようなきっかけを提供できれば、団地に住む人たちの生活の質の向上につながればと思っています。

店のキーカラーとなっている青で塗られた壁。

──セカンドステージを考えるにあたって、大切なことは何でしょう。

たかはし:好きなことについては貪欲にやり続けることが大切だと思います。いろんな障壁はあるけれど、諦めないで細く長く続けることで何かにつながる気がします。私は好きな花の仕事を続けたことで、たくさんの出会いにつながりました。そしてその出会いが仕事に繋がって、このお店もオープンでき、どんどん自分の可能性が広がりました。でもこの店がゴールではない。またここを起点にして、何かに繋がっていければと思っています。

仕事がなくて苦しい時でも動いていなければダメだ、とスクールに通っている時に教わりました。それは今でも実践しています。何もなくてもSNSにあげるとか、ですね。花の仕事を始めたころは、わかる人にわかってもらえればいいやって考えていましたが、そういう時期は広がらないんです。仕事をするんだったら、絶対ノーは言わない。以前、ひまわり1000本というディスプレイの注文がありました。それも1週間、咲いた状態でキープしなくてはいけない。無理かなと思ったけど、やってみたらできたんです。やったことがないからやりませんでは、可能性は広がらないと思っています。だから今後も新しいものに挑戦していきたいと思っています。

店の一角を占める大きな本棚。たかはしさんが子どものころから使っているこの棚が桜材のため、店名に生かされた。

たかはしさんが店主をつとめるライフスタイルショップ「green&books 桜の棚」
植物、本だけでなく、雑貨、used品も扱っている。また花束などフラワーギフトも注文できる(予約制)。
〒252-0323神奈川県相模原市南区相武台団地2丁目3−5
営業時間:10:30~17:30・火曜定休
桜の棚HP
桜の棚インスタグラム

たかはしさんの展覧会&ワークショップ
11/8(金)~10(日)、東京・中目黒ギャラリー燦にて、書家の甘雨さんとの二人展 『黒と翠 Kuro to Sui』を開催。書と植物のコラボワークショップも楽しめる。
たかはしさわこインスタグラム

取材・文/国松 薫

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