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「ストライキ」「ボイコット」「サボタージュ」などは、労働者が勤め先の会社に対して実施することのある争議行為の種類です。現在の日本では海外ほどは実施されていない行為のため、深く理解できているか不安になることもあるでしょう。
この記事では、ストライキやボイコット、サボタージュ、デモ、ロックアウトなどの言葉の意味や違い、日本や海外における事情などを解説します。さらに、実際にストライキをする場合のポイントも確認しておきましょう。
「ストライキ」「ボイコット」などは「争議行為」の種類
「争議行為」には、ストライキ・ボイコット・サボタージュなどの複数の種類があります。
争議行為は、要求の実現や抗議を目的としておこなう集団行動を指す言葉です。そのうち、労働者による争議行為とは、労働に関する主張を実現させるためにおこなう、業務を妨げる行為のことです。
労働者による争議行為には、ストライキ・ボイコット・サボタージュのほかに、「ピケッティング」「残業拒否」「休暇闘争」「職場占拠」などがあります。つまり、労働者が正常な業務の運営を阻害する行為をまとめて、争議行為と表現しているものです。
また、「ロックアウト」と呼ばれる使用者側の争議行為もあります。
このような労働者側と使用者側との間で起こる争いは、「労働争議」と呼ぶこともあります。
ストライキとは?基礎知識を解説
ストライキ・ボイコット・サボタージュなどの争議行為の種類のうち、まずはストライキに関する基礎知識を解説します。ストライキは、実施されると世間の注目を集め、場合によっては企業の評判や信頼性の低下につながる恐れがある行為です。
はじめに、ストライキという言葉の意味、同行為の法律上の認識、ストライキの3つの種類を確認しておきましょう。
■「労働条件や職場環境の改善を求める集団的な抗議行動」
そもそもストライキとは、「労働者が労働条件や職場環境の改善を求める、集団的な抗議行動の手段」の一種です。労働者が実施する抗議行動の手段のうち、ストライキは集団で一斉に業務の放棄をおこなうものをいいます。
ストライキを起こす目的は、「労働条件などの待遇改善」「不当な扱いに対する抗議」などです。
労働者がストライキを起こして一斉に業務の放棄をおこなうと、企業側は収益の減少や信頼性の低下などの不利益をこうむる可能性があります。ストライキを起こすと伝えた場合の労働者側の意図は、企業の不利益につながる行為を示唆することで、使用者と対等な立場で交渉をおこなうことにあるのです。
■ストライキは法律で認められた労働者の権利
ストライキを起こすことで、企業側と対等な立場で交渉をおこなえる可能性があるとはいっても、勤め先の不利益となるようなことを実行しても良いのかどうかと不安になる方もいるでしょう。
実は、ストライキは「団体行動権」の一環として法律で認められている労働者の権利のひとつです。たとえば、憲法第28条には「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」と記載されています。
なお、ストライキは法律上「同盟罷業(どうめいひぎょう)」と表す場合もあります。
参考:日本国憲法
■ストライキの3つの種類
ストライキには、以下のとおり3つの種類があります。
<全面スト>
……労働組合員が全員参加するもの。会社内すべての部門で実施する。
<部分スト>
……労働組合内の一部が実施するもの。基幹事業が実施する。
<一部スト>
……従業員の一部を組織する労働組合がおこなうもの
また、「指名スト」は部分ストの一種です。部分ストのうち、労働組合が参加者を指定するものを指名ストと呼びます。
これらのほかにもストライキには多くの種類があるものの、そのなかには違法なものもあります。
ストライキに関連する複数の用語
以下の用語は、ストライキや争議行為に関連するものの例です。
・ボイコット
・サボタージュ
・デモ・デモンストレーション
・ロックアウト
これらの関連する複数の用語の意味やストライキとの違いも、あわせて確認しておきましょう。
■関連語1:ボイコット
ボイコットとは、「個人・集団による抗議行動の一種」のことです。「参加を拒否する」「購入を拒否する」「不買運動をする」などの意味のある「boycott」という英語に由来するといわれています。
日本国内では、「なんらかの行動や参加を拒否すること」を指してボイコットと表現する場合が多いです。業務の拒否などの労働に関するもの以外に、不買運動や授業への参加拒否なども、ボイコットに含まれます。
□ストライキとボイコットとの違い
ストライキとボイコットは、どちらも争議行為の種類です。これらの違いは、「行動の目的」「該当する抗議行動の内容」「抗議行動をおこなう対象者」などが挙げられます。
ストライキは、労働に関する要求を通すために労働の放棄をおこなうものであり、抗議行動をおこなうのは労働者です。
一方でボイコットは、考えや要求の実現のため、個人・組織を問わずに抗議活動をおこないます。特定の相手の排斥などを目的としていて、実行する抗議行動には不買・排斥・参加拒否など幅広い内容が挙げられます。ボイコットは幅広い抗議行動が含まれているため、実行するのも労働者だけではなく、さまざまな人が対象です。
□ボイコットの実例
実際にどのようなボイコットが起こったのか、実例を確認しておきましょう。
有名なものとして、1980年にモスクワで開催されたオリンピックへの参加を拒否したボイコット活動が挙げられます。モスクワは、ソビエト連邦(現ロシア)にある都市の名前です。
モスクワオリンピックでのボイコット活動は、アフガニスタンへ侵攻していたソビエト連邦に反対するために実施されました。
このほか、1891~1892年にイランでおこなわれた「タバコ・ボイコット運動」と呼ばれる抗議活動も知られています。
■関連語2:サボタージュ・サボる
サボタージュとは、「労働者が業務の生産性や質を故意に低下させる行為」を指す表現です。労働の質・量を低下させることで、使用者への抵抗や抗議をして、労働条件などの改善を訴えます。
日本では、サボタージュは「業務の生産性や質の低下」という意味であまり理解されていません。そのため、「労働者が仕事を怠けること」という意味として用いられることが一般的です。
なお、「サボる」はサボタージュから転じてできた言葉です。サボるには、「怠ける」「ずる休みをする」などの意味があります。
□ストライキとサボタージュとの違い
ストライキとサボタージュは、どちらも労働者が使用者に対して正常な業務の運営を阻害する行為をおこない、労働条件などの改善を訴えるものです。これらの違いは、「どれほどの業務の運営を阻害するか」だといえるでしょう。
ストライキは、労働をまったくおこなわない行為のことです。
一方で、サボタージュは労働をすべて拒否するわけではなく、仕事を怠けるなどして労働の質や量を低下させる行為を指します。
□サボタージュの種類
サボタージュの種類は、以下のとおりです。
<積極的サボタージュ>
……会社が所有する財産を破壊したり、不良品を故意に生産したりと、組織の業務を直接的に妨害する行為。
<開口サボタージュ>
……顧客や取引先に対して虚偽や歪曲した事実を広める行為。
<消極的サボタージュ>
……労働者同士が団結し、組織の作業能率を低下させる行為。
積極的サボタージュや開口サボタージュは、正当性のない業務妨害行為と評価されてしまいます。一方で、消極的サボタージュは比較的正当性が認められやすいようです。
■ストライキに関連するそのほかの用語
ストライキに関連する、ボイコット・サボタージュ以外の用語の意味などもあわせて確認しておきましょう。
□デモ・デモンストレーション
デモ・デモンストレーションとは、「抗議・主張などの特定の意志を集団で広めようとする行為」のことです。集団で主張する内容には決まりがなく、どのような内容の主張であってもデモ・デモンストレーションという表現が使えます。
デモ・デモンストレーションでは、一般的に集団での行進・集会などの実施によって結束を周囲に示し、特定の主張を広めようとします。
□ロックアウト
ロックアウトとは、「使用者側がおこなう争議行為」のことです。労働組合と使用者との交渉がうまくいかずに行き詰まり、労働者が争議行為をおこなった場合には、使用者側がロックアウトを実施する可能性もあります。
ロックアウトは、労働者を業務から締め出して就労を妨げ、労働組合に圧力をかける行動です。労働者がストライキをした場合の対抗行為として、店舗を閉鎖するなどのロックアウトをおこなうことがあります。
ただし、ロックアウトは法的に正当な行為として認められにくい行為です。ストライキなどに対抗できる行為ではあるものの、実施するかどうか考える場合は慎重に検討すると良いでしょう。
日本と海外でのストライキ
日本と海外では、ストライキに関する意識や事情などが異なります。
もともと、労働組合はヨーロッパから始まりました。産業革命が起こった18世紀に労働組合ができたものの、当時は活動が厳しく弾圧されていました。
19世紀はじめ頃になって自由主義や社会主義の思想ができ、労働組合の公認化や法的に労働者を保護するようになっていきます。このような社会の動きのほか、労働者同士による自主的な共済活動も始まりました。
不当な解雇や賃下げ、長時間労働などの問題は、古くからありました。労働者がこれらの問題に立ち向かう方法のひとつとしてできたのが、ストライキと呼ばれる争議行為の手段です。
ヨーロッパから始まった労働組合は、その後名前を変えつつさまざまな国々に広がっていき、日本にも独自の形で定着しました。
それでは、日本と海外におけるストライキの特徴などを確認していきましょう。
■日本におけるストライキ
現代の日本では、海外よりもストライキの数が少ないといわれています。
日本国内でも、ピーク時である1974年には、年間で5,211件ものストライキが起こりました。しかし、その後ストライキの発生件数は減少傾向が続き、2022年のストライキは33件だったそうです。
日本でストライキが少なくなったことには、以下のような要因があります。
・労使協議制度の定着
・待遇への満足度の向上
・企業業績の悪化
・迷惑意識の自覚
・企業別の労働組合が多いこと
・公務員によるストライキの禁止
日本では、労使協議制度の定着によって、使用者と労働者側の意見調整の難易度が減り、合意形成を得やすくなりました。労働者の待遇なども改善傾向にあるため、ストライキの機運が高まりにくいようです。
景気の停滞や企業の業績が悪化したことで、ストライキを実施する際の効果を見込みにくくなったともいわれています。
産業別ではなく企業別の労働組合が多かったことも、日本におけるストライキの特徴の要因です。企業別の労働組合は、使用者の利益を優先しやすい傾向にあります。日本では終身雇用制が定着していた影響で企業別の労働組合が多くできたため、使用者の不利益となる行為を選びにくい傾向にあったと考えられるでしょう。
また、日本にはストライキが禁止されている職業や業務もあります。日本でストライキが禁止されている職業・業務の例は、以下のとおりです。
・国家公務員
・地方公務員
・工場における安全保持施設の維持・運航を妨げてしまう業務
・電気事業者による電気の正常な供給に直接障害を生じさせる業務
・船舶が外国の港にあるときの業務、また人命や船舶に危険を及ぼす業務
民間のストライキの鎮静化は、公務員によるストライキが禁止されたことによる影響がとくに大きかったといわれています。
■海外におけるストライキ
海外では、日本よりも大規模なストライキが起きやすい傾向にあります。自分たちが持っている権利は主張して当然だという意識が日本よりも強いため、近年でも多くのストライキが起こっています。
たとえば、アメリカでは2018年にとくに多くのストライキが実施されました。この時期に多かったのは、教育や医療、介護などの産業でのストライキの実施です。アメリカにおけるストライキは、待遇改善だけではなくて社会的課題にも取り組む姿勢が定着しています。
また、フランスは「ストライキの国」と呼ばれることもあるほど、ストライキの発生件数が多いようです。