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新たな一手となるか?老舗ホテルが次々と外販事業に挑む理由

2024.06.30

パレスホテルの名前がどこにもない、代官山のブーランジュリー

「S.Weil by HOTEL NEW GRAND」のオープンより6日早い4月23日、東京・代官山のフォレストゲート代官山にオープンしたのが、カフェ併設のブーランジュリー「Et Nunc Daikanyama」だ。実はこちらの運営母体は、東京・丸の内のパレスホテル東京を運営するパレスホテルである。

パレスホテルの歴史は、GHQの命令によりバイヤー専用の国有国営のホテルとして1947年に開業したホテルテートに始まる。その後1960年に同社が設立され、その翌年にパレスホテルが開業。オフィスビル併設型の近代的なホテルで国内外の賓客をもてなす施設として東京の発展とともに丸の内界隈のビジネスシーンでも活用された。その後、休館・建て替えを経て2012年にパレスホテル東京としてリニューアルオープンした。

外販事業は、これまでにもスイーツやライフスタイル商品などの物販を実施していた。しかし、2020年の秋、コロナ禍の影響でホテルへの来客が激減。

新たな収益源として外販事業の強化に乗り出した。その際、オンラインショップも同時にリニューアルし、自家需要や贈答需要の増加に伴い、売上は急成長を遂げている。

この急成長の中で、ホテルの強みを生かした商品を新たに開発して提供するブーランジュリーの立ち上げを構想。ホテルとは別のブランドの立ち上げには3年をかけ、2024年4月に代官山に「Et Nunc Daikanyama」をオープンした。

代官山駅前にあるフォレストゲート代官山の1階に出店した「Et Nunc Daikanyama」

ここで注目したいのが、まずはブランド名も、店内のどこにもまったく「パレスホテル東京」の名前が見つけられないことだ。これについて、出店を担当したパレスホテル 事業開発部 支配人の菅谷和弘氏は、ブランドの自由度を高め、コラボレーションの柔軟性を確保するためだと話す。

「直球で(パレスホテル東京を冠した)名前をつける場合もありますが、今回は違ったアプローチを取りました。Et Nuncというブランドはなるべく自由度を高く位置づけたかったことが大きかったです。もちろんホテル名がついている方が店舗の認知は早く、注目も高い。ですが、結果的には、ニュースリリースを出していることもあって、弊社が手掛けたということは伝わっています。また、新しいブランドの開発を行ったことで、ショッパーのデザインからInstagramの投稿まで、自由度も上げられました」(パレスホテル 菅谷氏)

ブランドを声高に伝えていないのは、店舗で使っている素材についても同様だ。Et Nunc Daikanyamaで販売しているパンはすべて、国産の小麦粉を使用。さらに、商品ごとに使う小麦粉の種類も変えている。ただ、これも店内ですべて提示はしていない。一部はInstagramなどで発信をしているが、来店する顧客に提示するのは店員による接客を通じてが基本。国産小麦粉の「さちかおり」と「キタノカオリ」の違いが話せるスタッフがいるなど、1つ1つのコミュニケーションを通じて届けているのが特徴だ。そのためにパンを対面で販売する形式を採用している。

Et Nunc Daikanyamaではパンはスタッフにピックアップしてもらうスタイルで販売している

Et Nuncの商品を開発した、パレスホテル東京 ベーカリーシェフの星敏幸氏

今後は、まずEt Nunc Daikanyamaでの成功を実現してから、慎重に次のステップを踏む計画だ。国産小麦へのこだわりやデザインに対する徹底した取り組みが評価されることで、長期的な顧客との関係構築を目指している。

パレスホテルの外販事業は、ホテル事業、不動産事業、コンサルティング事業と並ぶ重要な柱となりつつある。ビジネス街である丸の内から、より生活圏へと近づいた代官山に進出することで新たな顧客接点を創出し、ブランドの幅を広げること。2030年までに2019年の外販売上比の3倍を目指し、着実にステップアップを続けていく。

東京・横浜を代表する歴史ある老舗ホテルが挑戦する新たな外販事業の今後にも注目したい。

取材・文/北本祐子

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