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約3トン、300万枚を回収!横浜市が始めた「おくすりシート リサイクルプログラム」が成功を収めた理由

2024.06.28

シリーズ「イノベーションの旗」。前回に続き、薬の包装シート「おくすりシート」のリサイクルに関する話である。薬の錠剤が入ったおなじみのシート、これを集めてリサイクルしようという日本初の試みを第一三共ヘルスケアが横浜市ではじめている。およそ1年半で重さ約3t、300万枚相当のシートが回収されたというのだ。

なぜ、横浜市は薬の包装シートのリサイクルという日本初の実証実験に協力をしたのか。市民からの反応、そして実証試験で得た学びは何か。横浜市役所の新庁舎で、横浜市資源循環局政策調整部3R推進課長 今村貴美さんと担当職員に舞台裏を聞いた。

前編はこちら

左から横浜市資源循環局政策調整部3R推進課 担当係長 石川洋子さん、同 課長 今村貴美さん、同 鈴木涼太さん。

自治体の協力は必要不可欠

第一三共ヘルスケアが、環境に配慮した取り組みを加速させるため、サステナビリティ推進委員会を立ち上げたのは2019年。100種類以上の自社製品を検証し、環境に優しい取り組みを模索する中、薬の包装シートに着目した。PTPシートと呼称されるが、その原料はプラスチックとアルミで、資源に分類される。

PTPシートの国内年間生産量はおよそ1万3000t、約130億枚分に及ぶ。高齢化に伴い、今後も薬の使用量の増加が見込まれるが、リサイクルされずに捨てられているケースもあるのが現状だ。

PTPシートのリサイクルを進めていく方針が固まり、なじみのないPTPシートを分かりやすく“おくすりシート”と名付けた。廃棄物を勝手に集めるわけにはいかない。回収場所の理解も必要だ。そのためには自治体の協力を得る必要がある。そこで環境問題に意識の高い横浜市に白羽の矢を立てた。

強調した二つのポイント

横浜市は環境問題に取り組む自治体として最高評価である「シティAリスト」都市に選定されている。内閣府の「SDGs未来都市」の選定も受けている。横浜市資源循環局の今村貴美課長は言う。

「横浜市では2002年に“横浜G30プラン(※)”を策定し、燃やすごみを30%減らすことを目標に掲げ、取組を始めました。そして、市民や事業者の協力を得て、この20年間で燃やすごみの量半減を達成しました。昨年度には新たな計画として、“ヨコハマ プラ5.3計画(※)”を策定し、脱炭素化を推進するため、約20年ぶりに分別ルールを変えることを決めました。2024年10月から市内9区で、2025年4月からは全18区で、ハンガーやおもちゃ、ストロー等、プラスチックのみでできた製品をプラスチック製容器包装と一緒に回収し、リサイクルしていきます」
※ともに横浜市一般廃棄物処理基本計画

そんな横浜市資源循環局に、第一三共ヘルスケアのサステナビリティ推進担当と、このプランを共に推し進めるテラサイクルジャパンの関係者が、「おくすりシート リサイクルプログラム」への協力を要請した。

強調したのはおくすりシートを「資源」として回収し、リサイクルすることで、ごみ分別の意識の向上につながること、おくすりシートを純度の高いアルミとプラスチックのマテリアルにリサイクルして、別の製品の素材にしたいという点だった。

今村貴美課長は言う。

「おくすりシートは身近なもので、高齢化が加速する中でその量は増えていくと考えられます。そこに着眼したのは新しい視点だなと思いました。単一素材を抜き出してリサイクルすることで別の“物”に変わっていく。循環性が高まり、より質のいいリサイクルを実現することで脱炭素化にもつながることが期待できます」

部内からは「20年以上、ごみの分別に力を入れて取り組み、市民の意識は高い。うまくいくに違いない」と声が上がる。同席した若手職員からも「横浜は“開港の地”、歴史的にもいろいろと新しいことをやってきましたから」という声が響いた。

「おくすりシート リサイクルプログラム」の実証実験の提案が持ち込まれた2022年、横浜市が「是非、一緒にやりましょう。」と応えた。

市民の誰もが参加できる回収場所はどこ?

さて、実施は決まったものの、どこに回収ボックスを設置するか。

「ドラッグストアを中心に置こうと思われているのでしょうか」そんな市側の問いに、「おくすりシート リサイクルプログラム」を仕掛けた第一三共ヘルスケアは答える。

「ドラッグストアや調剤薬局に来られないお年寄りにも、このリサイクルへの参加をお願したい。日常的な生活環境の中に回収ボックスを置き、市民の誰もが参加できる取り組みにしたいんです」

そんな思いが「おくすりシート リサイクルプログラム」には、込められている。

日常的に薬を服用するのは高齢者が多い。それならお年寄りが数多く集まる場所に置けないだろうか、すぐに思いつくのは地域の高齢者等を支援する横浜市の地域ケアプラザだ。ドラッグストアには第一三共ヘルスケアのスタッフが、地域ケアプラザや地区センター、調剤薬局には市側が、それぞれ回収ボックスの設置をお願いした。

予想の10倍

実証実験のスタートは2022年10月、まずは横浜市中区・南区・西区の30カ所に回収ボックスを設置した。日本初の試みである。これまで捨てていたおくすりシートが、果たして集まるのか。第一三共ヘルスケアのスタッフも市の職員もその動向を案じた。

当初の回収目標は1年間で10万枚。満杯の回収ボックスは重さ2~3kg。シートの数でおよそ3000枚だが、ほどなく「いっぱいになりました」と、回収ボックスを設置していた病院から連絡がある。

ある地区センターでは「そんなに集まらないだろう」と、小さなサイズのボックスを置いた。ところがシートが集まり過ぎて「大きいものに変えてほしい」という、うれしい要請が舞い込む。

目標の10万枚はすぐにクリアし、7か月後の2023年5月には50万枚と大幅に目標を修正。1年後には当初の目標の10倍に当たる108万枚相当のシートを回収したのである。

なぜそこまで集まったのか? 今村貴美課長は言う。

「おくすりシートは洗わずそのまま回収ボックスに持ち込むことができる。“人の役に立ちたい”“何かに貢献したい”という意識をお持ちの方は多いと思いますが、この取組はハードルが低く参加しやすかった。また、普段見過ごしてしまうおくすりシートが、リサイクルできるという目新しさに、インパクトを感じたのかもしれません」

市役所には市民から「家から近い回収ボックスはどこですか」「もっと場所を増やしてほしい」という声が多く寄せられた。そこで横浜市内の全18区にボックスを設置、回収の拠点を102カ所に広げた。そうして実証実験の終了後もおくすりシートの回収を継続した結果、今年3月末時点で累計約300万枚シート、なんと重さ3t分に及ぶ量が集まったのである。

課題は市民への還元方法

一方で、課題も見えてきた。まず異物の混入の問題で、一番多いのは輪ゴムだ。輪ゴムでシートをまとめて投函されるケースもあるが、リサイクル会社の作業員がそれを一つ一つ手作業で取り除かなければならない。回収ボックスには“異物混入注意”の但し書きが貼られ注意喚起を続けている。おくすりシートリサイクルの浸透に伴い、異物混入は徐々に減少していくに違いない。

また、ボックスの回収作業は現在、宅配業者が回収するシステムだが、より環境に優しく効率的な方法がないか検討していくという。

同席した横浜市資源循環局の石川洋子係長は言う。

「今回のプログラムでは地域ケアプラザやドラッグストア、調剤薬局の方たちのご協力を強く感じました。分別・リサイクルについて市民の意識がさらに高まったと実感を得ています」

当初、目標として掲げた「ごみ分別意識のさらなる向上」という点は満たした。

もう一つの「アルミとプラスチック素材リサイクル」という目標の展開はどうか。

第一三共ヘルスケア サステナビリティ推進リーダーの阿部 良はこう答えた。

「試験的にリサイクル化したのは、おくすりシートから再生したリサイクル素材をシート状にしたものです。これでポーチを作り、その中に絆創膏やマキロン等を入れて救急ポーチとして、横浜市内で配付し、還元できたらと考えました」

リサイクルの循環が整うまで、新しいステージに向かうには今しばらく時間がかかるようだ。しかし、横浜市の今村貴美課長は言う。

「横浜で始まった取り組みでおくすりシートのリサイクルの可能性が実証できました。これが全国に広がり、“おくすりシートはリサイクルが当然”という世の中になっていけばうれしいです」

おくすりシート リサイクルプログラムは高齢化が加速する今、医薬品のお世話になることも多いお年寄りはもちろん、誰でも気軽に参加できる取り組みだ。皆が一丸となって取り組める横浜発の新しいリサイクルの未来に期待せずにはいられない。

取材・文/根岸康雄 撮影/末安善之

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