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増え続ける薬の包装シートを資源として利活用する「おくすりシート リサイクルプログラム」とは?

2024.06.27

薬の錠剤が入ったおなじみのシート、これを市民から集めてリサイクルしようという日本初の試みが、横浜市で本格展開されている。およそ1年半でなんと約3t、300万枚相当のシートが回収されたというのである。

「おくすりシート リサイクルプログラム」と名付けられたこの活動は製薬会社の第一三共ヘルスケアがスタートさせた。その発想、実現までの創意工夫とブレイクスルー、そして自治体との連携に至る背景と結果について、2回にわたって紹介する。まず話を聞いたのはプロジェクトの中心を担った一人、第一三共ヘルスケア サステナビリティ推進リーダー 阿部 良さんである。

第一三共ヘルスケア サステナビリティ推進リーダー 阿部 良

“動脈”そして“静脈”への挑戦

2006年、第一製薬と三共のコンシューマーヘルスケア事業を統合し、発足したのが第一三共ヘルスケア。昨今の循環型社会のニーズもあり、環境に配慮した取り組みを加速させようと、同社でサステナビリティ推進委員会が立ち上がったのは2019年。各部署からスタッフが招聘され、阿部 良も発足当時からのメンバーの一人となった。

これまで薬の添付文書の紙を入れず、パッケージに印刷したり、環境対応インクを使ったり、森林の生物多様性等を守るFSC承認紙を使うなどの取り組みは進めてきた。だが、

「“動脈”と“静脈”という考え方がある。“動脈”は製造、“静脈”は回収・リサイクル」
「そのへんはあまりはっきりと意識してこなかったね」
「“静脈”の分野にチャレンジするリサイクルプログラムができないか」

ミーティングで、そんな話し合いをしたのは2020年のことだ。

知られていないPTPシートは「資源」

サステナビリティ推進委員会のメンバーは原点に戻り、100種類以上の自社製品を卓上に並べ、環境に優しい取り組みを模索した。

「そもそもPTPシートが資源だという認識は、広まっているのかな」

薬の錠剤が入ったシートは、PTPシートと呼称される。PTPシートはプラスチックとアルミを圧着させたものだ。品質を保つ目的と、コストのバランスから、ほとんどのシートはこの2種類の素材が用いられている。アルミとプラスチックを素材とするPTPシートは、資源に分類されているが、多くの人はそれを知らない。

実際にアンケートを実施すると、資源として分別していると回答した人は3割未満。6割以上の人はPTPシートが資源とは知らないという回答を得た。多くのシートが再資源化されず、ごみとして捨てられているのだ。

PTPシートの国内年間生産量はおよそ1万3000t、通常のシートでなんと約130億枚分もある。さらに高齢化に伴い、今後も使用量の増加が見込まれる。

ごみ分別の意識の向上につながってほしい、

「PTPシートをリサイクルできないものか」

現状を踏まえ、スタッフからそんな声が上がる。だが、錠剤の包装に再生素材を使ってはいけないと国が定めている。

「PTPシートとして再生しなくても、アルミとプラスチック素材にリサイクルして、別の製品に使えるのではないか」

「しかしプラスチックでも、薬の特徴に応じて、ポリ塩化ビニールとかポリプロピレンとか、シートの素材にはいろんなものが入っている。素材としての再生は難しいんじゃないか」

いろんな意見が、サステナビリティ推進委員会で話し合われた。

「PTPシートに限らずリサイクルの対象にはいろんな素材が使われているものです。実際にペットボトルもリサイクルシステムが完成するまで、30年近くかかっている。PTPシートのリサイクルも、一つ一つトライしてクリアしていきましょう」

現実問題として、PTPのシートは資源としての認識が低く、ほとんど捨てられている。“PTPのシートは資源”という認識が広がることで、ごみ分別の意識の向上につながっていけば、このプログラムに大きな意義があるのではないか。

そんな考えが、サステナビリティ推進委員会のメンバーたちの腹に落ちた。世界20か国以上で活動するテラサイクルジャパン合同会社が運営・企画のパートナーになり、プログラムへの取り組みがはじまった。

“おくすりシート”という新語が誕生

阿部 良は言う。

「最初は『PTPシート リサイクルプログラム』という名称だったのですが、社内から『PTPシート』はわかりにくい。別の呼び名を考えたほうがいいんじゃないかという提案がありました」

さて、名称をどうするか。会議を重ねて、親しみを持てる“おくすりシート”というネーミングを発案した。

回収の方法としては、電池の回収ボックスのようなものを置くことを考えたが、そもそも「おくすりシート」とは何か、そこがわかりにくいという意見が出た。そこで「おくすりシート」がわかるように、腰ぐらいの高さのボックスの上部に薬のシートを突き出し、目立たせる形のデザインが施された。さらにわかりやすさと親しみを感じてもらえるよう、回収ボックスを『おくすり くるりんBOX』と命名した。

なぜ横浜市でスタートさせたのか?

さて、具体的にどのように回収するのか。阿部良は言う。

「リサイクルが目的であっても、ごみは廃棄物なので勝手に集めるわけにはいきません。法的な問題もクリアし、回収場所の理解も必要なので、自治体の協力を得てスタートすべきではないかということになったのです」

環境問題に対して意識の高い自治体はどこか。白羽の矢を立てたのは横浜市だった。横浜市は温室効果ガス排出抑制に関する取り組みなど、様々な環境への活動が評価され、環境評価を行う国際非営利団体のCDPによる2021年の評価で、環境問題に取り組む自治体として最高評価の「シティAリスト」都市に選定されている。また、内閣府の「SDGs未来都市」の選定も受けている。

環境施策である廃棄物行政を担い、3R(リデュース、リユース、リサイクル)のさまざまな取り組みを行っている横浜市の資源循環局に「ごみ分別の意識向上と、アルミとプラスチックのリサイクルが目的です」と「おくすりシート リサイクルプログラム」の実証実験の提案を持ち込んだ。2022年のことである。

「資源」という認識がなく、その多くは捨てられているおくすりシートを、市民の方々はわざわざ回収ボックスに持ちこんでくれるのだろうか。阿部良をはじめ、スタッフの面々の心配は膨らむばかりであった。

「おくすりシート サイクルプログラム」の実証実験がスタートしたのは2022年10月だった。2回目は実証実験を受け入れた横浜市の考えと、スタッフも予想しなかった驚きの結果について、詳しく解説する。

取材・文/根岸康雄 撮影/北原裕司

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