1円パチンコは毒か薬か
2006年に、画期的ではありながらも将来的には自ら首を絞めることになるシステム「1円パチンコ」が都内に登場しました。従来は4円。1/4の金額で遊ぶことができるタイプです。
1円パチンコは人気を集め、数多くのホールに導入されました。パチンコをする側は少ない金額で長時間楽しめるという特徴があります。しかし、ホールの運営側にとっては、1円パチンコを設置したその一角の売上が1/4になることを意味します。当然、人件費や電気代は従来と変わりありません。利益率が悪化するのです。
2019年のパチンコホールの粗利(売上から遊技客に商品を還元した分を差し引いた額)は、3.24兆円。2014年は3.91兆円でした。2割近く減少しています。その推移を見ると、コロナ前からジリジリと下がり続けていたことがわかります。
※パチンコ・パチスロ産業21世紀会「遊技産業レポート2023」より筆者作成
1円パチンコをそのまま導入するだけでは、利益率が悪化するだけになってしまいます。そのため、パチンコホールは4円のパチンコ台の当たる確率を低く抑え、利益を出やすく調整する必要があります。しかし、遊技者への還元率が低くなると、「出ない店だ」と判断されて競合店への流出を招きます。
1円パチンコの登場は低収益化を招くだけでなく、経営の難易度を上げるものでもありました。
設備投資を怠れば集客できない厳しい業界
パチンコホールは広告が厳しく制限されています。集客の特効薬が新台の導入。話題の機種はファンが待ち望んでいることが多く、場合によっては開店前から行列ができることもあります。
しかし、パチンコ台は1台50万円前後と高額。数十台の入れ替えとなれば、数百万円単位の投資が必要になります。現在はメーカーの新台発表ペースが早く、大型のホールともなれば月に1回の入れ替えが必要。設備投資が極めて重いのです。しかし、それをしなければ集客ができません。
更に業界を震撼させているのが、パチンコ玉やメダルを使わない「スマートパチンコ」「スマートパチスロ」の登場。導入費用は1台100万円前後と言われています。
パチンコ玉を使わないことにより、不正行為の防止やスタッフの削減をできる可能性は高まります。しかし、初期投資が重くホールへの負担は計り知れません。
しかも、スマート化の波はコロナ禍が収束した直後にやってきました。2022年は半分以上のホールが赤字経営であり、体力を失っています。赤字が継続していたことでバランスシートが傷ついていれば、金融機関は資金を出し渋るでしょう。そうなれば、経営継続を断念するのも当然です。
駄目押しとも言えるのが、7月3日からの新紙幣の発行。更なる設備投資への負担は、ホール規模の大小を問わず大きなものとなるのは間違いありません。
パチンコホールは今、最大の転換点を迎えていると言えます。
取材・文/不破聡