カスハラの予防・解決策は「実施されていない」が最も多い!?現場や会社対応と被害者の心理的影響
会社側の対応は、「嫌がらせの被害を認知していたが、何も対応はなかった」が36.3%で最も高くなっている。「認知無し」も19.3%。会社側から対応があった場合は、「事実確認のためのヒアリング(44.5%)」が最も多い。
被害を相談した被害者の25.5%が社内でのセカンド・ハラスメントを経験していることも判明。
セカンド・ハラスメントの内容は、会社や上司から「ひたすら我慢することを強要された(11.0%)」、「軽んじられ、相手にしてもらえなかった(8.9%)」、「一方的に自分自身に責任転嫁された(8.2%)」と続く。
カスハラを受けた直後の心境を聴取すると、「仕事を辞めたいと思った」が38.0%、「出勤が憂うつになった」が45.4%と高い結果に。また、「次の転職時は顧客やり取りの無い仕事につきたい」と感じた者も37.5%いた。
1年以内の「カスハラ経験あり層」と「無し層」を比べたところ、「あり層」は転職意向が1.8-1.9倍高い結果に。また、年間の平均離職率は1.3倍高い傾向が見られた。
従業員が認知しているカスハラ予防・解決策は、「実施されていない(43.0%)」が最も高くなっている。取り組んでいる会社は、「社内に相談窓口が設置されている(47.5%)」、「クレームやハラスメントの事例が社内で共有されている(39.5%)」が続く。
カスハラ対策・予防施策のギャップについて、従業員の期待度に対して企業の実施率が低い項目は、電話応答での自動録音。次に、対外的な方針・態度の公表、名札のフルネーム表記廃止。
カスハラの影響を最小化するために必要な「信頼資産」と「心の負債」という発想とは
カスハラに強い職場の要素について、何かあっても同僚・会社・上司が助けてくれるという「信頼資産」をためておくという発想と、トラブルがあると自分では何もできない、対応できないと感じる「心の負債」を減らすという発想が重要となる。
何かあっても同僚・会社・上司が助けてくれるという「信頼資産」が高い群は低い群と比べ(3層比較)、カスハラ後の心境として「仕事を辞めたい」が23.2ポイント低く、およそ半減。「心身に不調をきたした」は14.9ポイント低い結果に。
一方で、トラブルがあると自分では何もできない、対応できないと感じる「心の負債」はその逆の傾向がみられた。
信頼資産・心の負債には、「組織文化」「カスハラ知識の有無」「相談ネットワーク」の3つの要素が影響。
信頼資産と関連が高いのは、チームワーク志向の組織文化、会社の対応やトラブル対応・事例などの知識、上位層と同僚の相談可能人数(相談ネットワーク)がプラスに関連している。
信頼資産が高い組織は、チームワーク志向・自由闊達・開放的な組織文化が高い(3層分割の高低比較)。逆に低い組織は、顧客意向の尊重と属人思考が強い。カスハラ知識と相談ネットワークはそれぞれ高い層ほど信頼資産が高く、心の負債が低くなっている。
カスハラ経験後の会社対応の有無によって、その後の信頼度は変化している。カスハラについて会社が「認知あり、対応なし」の場合では大きくその後の信頼度や相談しやすさが下がり、「対応あり」の場合には上がっている。
部下の回答傾向から、上司への信頼度の高いタイプと低いタイプを抽出し、タイプ別の比較を行った。信頼度が高いタイプは、部下の成長への志向性が高く、傾聴・観察、成長支援、率先垂範行動などの行動をしている。信頼度が低いタイプは顧客志向だけが強い。
■パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林祐児氏の提言
昨今、カスタマーハラスメント(顧客からの嫌がらせや不当な要求)への世間の耳目が集まっている。東京都は全国初のカスハラ防止条例制定に動いており、UAゼンセンもカスハラのガイドラインを発表。民間の議論も活発化している。
その背景には、現場の人手不足がある。顧客サービス職の人材不足がますます高まる中で、カスハラによる離職は事業・ビジネスの存続に関わる深刻な問題だ。今後、さらに社会問題化していけば、顧客サービス職を選ぶ労働者もますます少なくなってしまう。
本調査では、ホワイトカラーを含めた顧客折衝のある職種について、広範囲に及ぶカスハラの実態が確認され、また、近年増加傾向にあることも示唆された。特に福祉・医療職は頻度高く発生している。
その一方で、会社の対応は後手に回っている。対応している企業は事前予防も含めて4割に満たない。それどころか、一部ではセカンド・ハラスメントのような我慢の押しつけや従業員への責任転嫁が行われている実態も明らかになった。
不特定多数の客との折衝があるなかで、カスハラ発生を完全に防ぐのは難しい。人材マネジメントの観点からは、未然に防ぎきるよりも、「カスハラに強い」組織を創るという発想が重要になる。
カスハラの負の影響を最小化するためにデータから示唆されたポイントは、1.みなで助け合えるという職場の「信頼資産」を貯めること、2.トラブルが起こっても何もできないという「心の負債」を減らすことである。
予防的措置、研修訓練による知識付与、マネジメント改革は、こうした「カスハラに強い組織づくり」に直結しており、企業として積極的な施策が必要だ。
カスハラ後にも、被害者を適切にケアし、事例として共有していくことで、会社への信頼資産を貯めることにもつながっていく。また、社内だけではなく、対外的に会社としての態度や対策を表明していくことも求められている。
目指すべきは、増えるカスハラに怯え続けることではなく、カスハラが「起きたとしても大丈夫」と思えるような強い組織づくりである。
調査概要
調査名称:パーソル総合研究所「カスタマーハラスメントに関する定量調査」
調査内容:
・サービス系職種における顧客からのハラスメント・嫌がらせの実態とその影響を確認する。
・ハラスメントの負の影響を防止するための人材マネジメント・施策の在り方について示唆を得る。
・医療・福祉領域のペイシェントハラスメントの実態と取り組みについて明らかにする。
調査方法:調査会社モニターを用いたインターネット定量調査
調査時期:
自由回答調査:2024年2月6日 – 2月9日
定量調査:2024年3月21日 – 3月25日
調査対象者:
顧客折衝のあるサービス職 全国20~69歳男女
[SC調査[n=20,108s
[本調査]3年以内ハラスメント被害経験者 n=3000s
対象職種:事務・アシスタント、営業、カスタマーサポート、飲食・宿泊接客系職、理美容師、航空機客室乗務員、コンサルタント、教員、ドライバー、警備、医療・福祉系職員
実施主体:株式会社パーソル総合研究所
出典:パーソル総合研究所
出典
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/customer-harassment.html
構成/Ara