「世間が抱く私のパブリックイメージには自覚がある」そう語る彼女は、なぜ20年以上の芸歴で築き上げた〝自分〟を変える必要があったのか。その理由と答えを探る──。
俳優 石原さとみ
いしはら・さとみ/1986年生まれ、東京都出身。2002年『第27回 ホリプロタレントスカウトキャラバン』でグランプリを受賞。翌年、映画『わたしのグランパ』で俳優デビュー。放送中のドラマ『Destiny』(テレビ朝日系、毎週火曜21:00~)で主演を務め、元恋人の謎を追う検事・西村奏役を熱演。『あしたが変わるトリセツショー』(NHK)ではMCを務める。映画『ラストマイル』が2024年8月23日公開予定。
「何としても変わりたかった」30代になった彼女が選んだ世界
今から7年前──30歳を迎えた彼女は焦っていた。このままの自分では世の中に飽きられるだろう、と。
「実際、自分自身が〝石原さとみ〟に飽きていた時期でした。自分が飽きていたら、きっと世間も同じように感じるはず。だから、何としても変わりたかったし、変わらなきゃいけないと思ったんです」
危機感を抱いた石原さんは、すぐさま行動に移す。映画『さんかく』『ヒメアノ~ル』などで知られ、人間の心理をえぐる鬼才と評される監督・吉田恵輔(よしだ けいすけ)氏のもとへ行き、「私を変えてほしい」と直談判したのだ。
「吉田監督の作品は、自分と真逆の位置にあったんです。そこにあるのは、エンタメを届けるドラマとは違う、まるでドキュメンタリーのような世界観。自分のパブリックイメージを考えると、絶対にオファーが来ない自覚はありました。私が生きていない世界がここにあると思った。だからこそ吉田組に入りたかったんです」
その熱量が実を結んだのは3年後。念願かなって吉田監督の映画『ミッシング』の脚本が届く。描かれた内容は、まさに彼女が求めていた世界そのものだった。
「読んだ瞬間『うわぁ、こういうこと!』と感じました。絶対やりたいと思ったけれど、正直どうやって演じればいいのかわからない部分も多くて、怖さがあったのも本音です。だけど、やらないという選択肢は1ミリもなかった」
石原さんに託されたのは、幼い娘の失踪をきっかけに、出口のない暗闇を彷徨(さまよ)い続ける母親・沙織里役。脚本が届いたあとに自身も出産を経験し、それによって「自分の命より大事なものを失う怖さ」の解像度が格段に上がったという。
「脚本を読んだ時の感情が、出産前後で全く違いました。子供が生まれたあとは『もうこの感情になりたくない』って、苦しくて……。でもそれって、沙織里を演じるうえで一番大事な気持ちなんだと思います」
同作品は、産休明けにクランクインした復帰作のひとつ。しかし、彼女にとってはある意味〝デビュー作〟でもあった。
「今まで携わってこなかったジャンルなので、まるで新人のような気持ちで挑みました。ようやくスタートを切れた感覚です。そうならざるを得ないくらい追い込まれていたのもありますが、自分自身の知らないところをたくさん引き出してもらったし、学びもたくさんありました」
まるで沙織里の人生そのものを生きているかのような、怖いほどの生々しさを感じられる演技。そこにいるのは、世間が知っている〝石原さとみ〟ではない。
「私たちの仕事はお芝居をすることじゃなく、役を生きること。どんな生き方をすべきなのか、そういった姿勢で演技に臨める人こそが〝役者〟なんだと思います。だから私も〝役者〟になりたいです」
30歳の頃、自分自身に飽きてた。
だから「絶対私にオファーが来ない作品」に直談判した