DIME読者のビジネスシーンでも鏡餅理論は応用できる
わかりやすさが何より大切という〝鏡餅理論〟は、玉川さんが関わっているテレビ番組の仕事だけでなく、ほかのビジネスにも応用が利く手法として覚えておくといいだろう。特に、プレゼンテーション、ブリーフィング、ピッチ(注1)などを行なう時には意識することを心掛けてほしい。
例えば、プレゼンテーションの際、こちらの主張を通したいあまり、売り上げや経営に役立つなどの「意義がある」ことばかりを、つい主張してしまいがちだ。しかし、どんなに魅力的な提案でも「わかりやすい」ことが欠如して理解しにくいと、聞いている人は共感できない。聞いているふりをして、別のことを考え始めるかもしれないし、理解するのをあきらめて「貴重な時間を取られて不快だ」と感じるかもしれない。
玉川さんの〝鏡餅理論〟における「わかりやすい」ことを念頭に置いて「どうすれば上手に伝わるか」「どんなイラスト、動画、キーワードとなる言葉をプレゼンテーションに入れればいいのか」などを第一に考えたほうがいいだろう。
玉川さんが二番目に重要と話す「おもしろい」要素についてもビジネスでは欠かすことができない。
「おもしろい」という言葉には「(1)つい笑いたくなる」「(2)興味をそそられて心が惹かれる」「(3)一風変わっている」などの意味がある。
とりわけビジネスシーンでは、前述の「わかりやすい」を大前提としつつ「(2)興味をそそられて心が惹かれる」ことを意識して話す内容を考え、相手にじっくりと聞いてもらえることを心掛けよう。その結果、プレゼンテーションを少しでも成功に近づけることができるはずだ。
なお、玉川さんは、視聴者がどういうものなら「おもしろい」と思って見てくれるのかを常に考えており、独自の見せ方も生み出してきた。
「インタビューに行く時、取材対象の相手だけでなく、聞き手の僕を撮影するカメラも用意して撮影し、それらを組み合わせて映像を編集するようにしました。そうすることで、すごく臨場感が出るんです。アメリカでは当たり前だったんですけど、日本で最初にデフォルトにしたのは僕なんじゃないかなと自負しています」(玉川さん)
最後に、鏡餅の上に置かれる〝小さなミカン〟=「意義がある」ことも、プレゼンテーションにおいて忘れてはならない。ただ単に会社の利益になるだけでなく、企業のCSR活動につながる点や、社内風土の活性化に役立つことなどを訴求すれば、提案内容を受け入れる意義を見いだしてくれて、鏡餅が美しく成立することになるだろう。
読み解き次第ではより深い学びを得られる、玉川さんの〝鏡餅理論〟。今後も、読者の仕事にも役立つどんな持論が飛び出すのか。これからも注目していただきたい。
注1 ピッチ
ITや広告業界で使われている用語で、初めての相手などに提案を伝えること。プレゼンテーションが特定の顧客や社員に向けて行なわれるものなのに対し、ピッチは興味や関心のない相手に行なわれるケースが多く、シリコンバレーで投資家を獲得するための〝エレベーターピッチ〟が有名。最近では、コンテストピッチ、Twitterピッチといった用語も生まれている。
取材・文/柿川鮎子