飲料の開発自体がミズノ初の試み!ビールのプロとのやりとりに苦戦
スポーツ用品の開発を主軸にするミズノにとって、飲料開発は今回が初の試み。開発当初は、何もかもが手探りの状態だったという。
「『まず何に着手するか』を考えることから始めたというのが正直なところです。私自身、これまでさまざまな商品開発に携わってきましたが、会社の定款を確認したのは初めてでした(笑)。飲料は企業として初めて開発する商品カテゴリーなので、ミズノとしてノンアルコールビールを開発して良いかを、きちんと確認しておく必要があったんです。
併せて、企業の方針として開発可能かを、社長をはじめ経営陣がいる役員会や取締役会で確認をしながら、開発がスタートしました」
開発初期、プハーのコンセプトや世界観に合う商品を共同で作ってくれるパートナーを探す必要があった。さまざまな作り手を訪ね、最終的に共同開発することとなったのは、長野県の南信州ビール。普段関わらないビール作りのプロと行う商品開発では、コミュニケーションをとるうえで苦労があったと近藤さんは振り返る。
「ビールの香りには、さまざまな表現方法はあり、ビールメーカーの方は『この香りを近くに感じて、その向こうの遠くでこの香りを感じる』なんて表現をするんです。素人の私たちにはまったくわかりませんでした(笑)。そこで、プロジェクトメンバーみんなで試飲をして、感じたことを言語化するトレーニングを行ったんです。南信州ビールさんの既存商品の香りや味わいの表現方法を習いながら、自分たちが表現したいものを徐々に伝えていくイメージで開発を進めていきました」
そうした試行錯誤を経ながらも、飲んだ方に「プハー」と言ってもらえるような味わいを模索していったという。
「『プハー』と言ってもらうためには、爽快感、爽やかさがキーポイントだと考えました。爽快感は、炭酸で表現できます。スポーツシーンでの爽やかさは、酸っぱい柑橘系の香りが合うと考えました。部活のあとに蜂蜜レモンを食べたことがある方も多いと思いますが、スポーツの後には、そういった味が欲しくなるんですよね。味わいや香りの方向性は、柑橘系で、さらに疲れている体にうれしい甘さを入れることに決めたんです。
そこで、ホップを2種類使うことにしました。一つがレモンやライムに近い感じのシトラス系のカスケード。もう一つはパッションフルーツの香りに近いモザイク。カスケードだけだと酸味を感じるだけになりますが、モザイクがあることで甘みも表現し、疲れた体に染みる香りや味わいのある商品になりました」
スポーツとビール、業界は違えどモノづくりに対する想いは同じ
近藤さんは、スポーツ用品メーカーとビールメーカーは業界が異なるものの、両社のモノづくりへの姿勢が共通している点に助けられたと話す。
「ありがたいことに南信州ビールさんとミズノでは、モノづくりへの姿勢、クラフトマンシップが似ていたんです。そのため、ゴールが決まっていれば、お互いに『これが必要だ』とわかり合えるところがありました。
とはいえ、業界がまったく違う異文化コミュニケーション。それを乗り越えるため、開発初期には、気を使った言葉の使い方をするのをやめました。また、お互い質問をし合いますが、返答は表面的なものではなく、譲れない信念や理由をしっかり伝えるようにしたんです。そうすると『こっちが必要だ』『でもこれだったらお互いこうしたほうがもっと良くなるかも』といったコミュニケーションが生まれ、本当の意味でストレートなやり取りができるようになりました。お互いのバックボーンを理解することで、最終的な判断がしやすくなりました」
インパクトのある「プハー」という商品名は、300を超える案の中から決められたという。
「プハーは我々としても初めて出すタイプの商品で、市場があるかどうかもわからないもの。新しく皆さんにお披露目した時に、商品名はわかりやすい必要があると思っていました。たくさんのアイデアを出していく中で、方向性がわからなくなってしまったこともありましたが、『そもそも私たちは何がしたかったんだっけ』と改めて振り返ったんです。最終的には、飲んだ人に『プハー』と言わせたくてこの商品を開発したというコンセプトに落とし込めるよう、商品名はそのまま『プハー』に決まりました」