総括(解説:WHI総研 井上 翔平氏)
資本市場の世界的な潮流としてESG投資の流れが高まり、非財務情報が重視される中、企業の多様性やガバナンス向上の指標として、女性管理職比率は投資上の大きな判断材料となっています。
女性管理職比率向上が多くの企業にとって避けては通れないテーマとなる中、本調査では女性管理職比率向上に関する施策を実施している企業が8割を超えた一方、「施策の効果実感なし」と答えた従業員は4割以上と、企業と従業員の間のギャップが明らかになりました。
施策を推進する人事部だけではなく、経営や施策の受け手である従業員が一丸となって施策を推進していくためにはどのようなアクションが必要なのか、今後さらに推進していくための3つのポイントを、本調査結果とWHI総研が培ってきた知見をもとに解説します。
1. 施策の定量的な効果測定とPDCAサイクルの推進
施策の効果を実感できていないのは従業員だけではありません。企業向け調査において、自社で実施している施策のうち最も効果を実感しているものについて、22.5%が「効果を感じているものはない」と回答しました。
さらに、「効果を感じているものはない」と回答した企業の定量的な施策効果測定状況を調べたところ、設問で挙げた8つの女性管理職比率推進施策について「すべての施策で定量的な効果測定をしていない」企業は40.0%、「すべての施策で定量的な効果測定をしている」企業は35.6%となりました。
2. 経営層・現場(管理職・非管理職)への問題意識の共有と施策推進体制の構築
施策の実施に対する経営層、現場(管理職、非管理職)の理解度や協力度を5段階で問う企業向け調査の設問では、それぞれ約4割が「施策の必要性を理解しており、実施にも協力的である」と回答しました。
施策に協力的な一方、他の選択肢である「主体的かつ具体的な提案や要望が寄せられる」「主管部門や担当者が主導しながら一緒に効果検証や問題の議論をしている」と比べて積極性は薄いため、より経営層や現場を巻き込めるようなコミュニケーションが取れると良いでしょう。
1.と関連しますが、施策のデータ分析ができている場合、経営層や現場も女性管理職比率が向上しない原因を客観的に把握できます。
そして経営層、現場とともに、その原因に対して何ができるか、現在の人事制度や現場で何が問題となっているのか、共通の指標をもとに議論することもできるでしょう。
このように問題意識を共有したうえで、経営層や現場が主体的に参画し、人事部と協働しながら施策推進体制を構築していくことが重要です。
3. 管理職の魅力付けと従業員への訴求
従業員向け調査では、性別に関わらず管理職を望まない従業員が8割を超える結果となり、「ワークライフバランスが悪化する」「能力不足」「責任のある仕事につきたくない」といった理由が多く挙げられました。
これらを踏まえると、管理職になるメリットや企業からの支援、施策の実施状況やその効果等、従業員への情報発信に苦労されている企業が多いことが推察できます。
特に、管理職になることに対し消極的な従業員が多いことについて、女性管理職のなり手を増やすという意味で、管理職の魅力付けや従業員への訴求といった対策を講じる必要性が高いと考えます。
では、会社でどのような支援があれば管理職になりたいと思うのか。従業員向け調査の結果で、女性では「管理職の職務定義の明確化」「特になし」「現在の仕事に対する評価」の順で回答が多く寄せられました。
管理職の仕事の定義が曖昧であるが故に、仕事内容や働き方に対して漠然と不安を抱いている可能性があります。
昨今、大手企業の中にはジョブ型を導入する動きもあり、ジョブ型の実現によって、管理職としての職務や役割が明確になっているケースも見られます。
ただ、ジョブ型を導入しているのは大手企業でもまだ限られています。管理職をキャリアの選択肢として提示するためにも、まずは管理職の職務、役割を明確にすることが必要ではないでしょうか。
そのうえで、女性に限らず管理職を目指したいという意向を高めるためにその魅力を発信していくことが必要でしょう。
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構成/Ara