働き方改革法案により、ドライバーの労働時間に上限が決められることから、物流・運輸業界で様々な問題が発生すると予想されている。いわゆる物流2024年問題である。DIME本誌でも元トラック運転手でフリーライターの橋本愛喜さんや、トラック運転手でYouTubeクリエイターもこちゃんさんらが、トレンド予想としてドライバー不足や、ドライバーの負担増など問題の深刻さについて語ってくれた。
さらなる人手不足は避けられない!?「物流の2024年問題」に対して荷主として何ができる?
2024年は、トラック運転手の時間外労働に対して年間上限960時間という規制が設けられる。日本の物流に大きな影響が及ぶといわれているが、その真相とは? 同業界に...
今回は実際にトラックドライバーを使って荷物を運ぶ、荷主側の取り組み事例のひとつとして、毎日食材などを届けてくれる生協の物流2024年問題への対策を紹介しよう。具体的にどんな対策を行ってどう効果を得ようとしているのか、取材してみた。
隠れていた実力派「生協」が身近に
@DIME読者に代表的なネット通販を問えば、Amazon、楽天。小売りの実店舗といえばセブン&アイ・ホールディングスなどと答えるはず。しかし、生協は歴史も古く、組合員数は約3000万人、売り上げ(生協では供給高と表現)は全国の生協の連合会である日本生協連の会員生協全体で3兆円を誇っている。
毎日食材を届けてくれる生協は、買い物困難地域にとってはライフラインの一つにもなっている。最近はDX-CO・OPプロジェクトなどITの活用により、世帯単位での組合員情報から個人レベルへの提案も可能にしているなど、若い世代を取り込む活動も積極的で、生協の存在感は少しずつ増している。
2024年問題解決への3つの具体例
そんな生協だが、物流2024年問題への対応として、今年一月に日本生協連としての自主行動計画を策定、提出した。抜粋は以下の通りである。
今回は具体例として、1)入庫待機時間の短縮、2)パレット積載改善、3)BOXパレットの活用、の3つを紹介しよう。
その1)入庫待機時間の短縮
荷待ち、荷役作業は、トラック運転手でYouTubeクリエイターもこちゃんさんも、「平気で待たされる、長時間の待機は本当に負担です」と語っていた。待機時間の短縮について生協では予約車両の荷待ち30分超過台数削減0台を目指すとしている。
さらに、予約率60%以上の達成を目指した。これは予約率を上げることで、荷待ち時間が削減できることを目指している。当日の受付台数が減少し、全体の待機時間の削減が実現できる。
また、いつ、どのような荷物が多いのか、日時・週次での要因を分析したり、人員拡充・バース拡大等の改善策を実施している。荷物は集中する時とそうでない時の差があるため、荷動きの要因を分析することで、待機時間の短縮につながるとしている。
生協の調査では2023年8月の改善前と12月の改善後を比べたところ、全体呼び出し待機30分超過台数は2330台から1359台と971台も減って42%の削減が実現。さらに全体荷降ろし込み2時間超過台数は2069台から1071台と998台減って48%も削減している。
具体例その2)パレット積載改善
生協ではパレットの積載改善も行った。コープ商品を全品点検し、パレット積数改善効果の高い商品を選出して、箱の大きさを変えたのである。例えば「CO・OPミートドリアソース」は人気商品のひとつだが、ケースサイズから見直すことで、パレットへの積載率が74%→94%と増え、パレット容積率は48%から76%へと大幅に増加した。さらにパレットの積載数も今までは段数5段だったものを6段にするなど改善している。
私達消費者にとっては、ミートソースの味と内容量が変化しなければ、箱の大きさが多少変化しても抵抗はない。箱の形状が変わることで積載量が増えるならば、喜んで受け入れるはず。今回ミートドリアソースの一人前3個パックのケースサイズはタテヨコ高さで360×275×170mmを357×266×175mmに変更した。
その3)BOXパレットの活用
生協の商品は日配品から衣料品まで幅広く、アイテムと数量が細かく存在して、それらを運ぶためのパレットも約60枚前後と多かった。メーカーから入荷した商品は、日本生協連で積込みをし、会員生協で荷卸しと検収するのに、長い時間がかかっていた。
今回の改善ではBOXパレットと呼ばれる、天板のついた箱を活用することで上面にもパレットを置けるような形状とした。パレットで荷物がひとかたまりにまとまり、ボックスの上にも別の荷物を置けるようになったので、ドライバーが積み直しする必要が無くなった上、広い作業場も不要となった。
BOXパレットを導入した結果、積込み・荷卸しの荷役時間としては合計で約2時間の削減効果が得られた。さらに会員生協側でも入庫バースの占有時間も短縮され、作業を効率化することが可能になった。
こんな簡単な箱ひとつが、ドライバーの負担を減らし、さらに入庫バースの占有時間を減らせるという大きな効果をあげているのに驚く人も多いはず。とはいえ、そうしたことをやってこなかった結果、ドライバーに負担を与え、社会問題にまで広がる事態へと傷を広げてしまったのである。
元トラック運転手でフリーライターの橋本愛喜さんは執筆活動や講演、Xなどでドライバーの現状を訴え、「2024年問題の本質は、当たり前のように届いていた荷物が運べなくなることではなく、世間やメディア、荷主や国の無関心によって、現場が崩壊することです」と述べている。小さな工夫でも着実に物流改革をしている企業には、惜しみないエールを贈りつつ、私達もその実例を知っておこう。
文/柿川鮎子