新株予約権の行使条件に四半期単体での黒字化を盛り込む
サービスそのものの参入障壁は極めて低いため、短期間でどれだけ出店できるかがchocoZAPの試練の一つであり、会員数が110万を超えて順調に増加していることから、その戦略は奏功したと見ることができるでしょう。
次はこの事業そのものを黒字化できるかどうかが、一番のポイントになります。chocoZAPは2023年11月と12月に単月黒字を達成しています。
しかし、chocoZAPは10月から11月にかけての出店数が10店舗しかありませんでした。同年の6月、7月は月に100店舗、8月は130店舗も増加しています。黒字化するために出店スピードを抑制したようにも見えます。
実はRIZAPグループは、2023年8月に新株予約権の発行を決定しています。割当対象者は代表取締役社長・瀬戸健氏。瀬戸氏は自身の資産管理会社CBMを経由して、会社に対して55億円の貸付を行いました。新株予約権は瀬戸氏が拠出する資金のリスクヘッジという側面が強いものでした。従って、何としてでも新株予約権の行使条件をクリアする必要があったのです。
この新株予約権には、「割当日から1年が経過するまでの四半期の連結営業利益が一度でも黒字化を達した場合」という条件がついていました。2024年3月期3Qにおいて、それを達成することができたのです。
この期間に出店を抑制しているのは、当然当初の計画通りでしょう。2024年1月から3月にかけても出店スピードを落としています。広告宣伝費も同様に抑えました。chocoZAPの黒字化は、事業が成熟して自然発生的に成し遂げたものではなく、計画的に仕組まれたものだと見ることができます。
フィットネスブームはこの先も続くのか?
東京商工リサーチは、2023年度(4月-2月)のフィットネスジムの倒産件数が28件に達し、過去最高を記録したと発表しました(「フィットネスクラブの倒産が急増」)。2023年のフィットネスクラブの利用者数は前年比3.0%増の2億1679万人。健康志向の高まりで市場は拡大しています。
価格と利便性で有利なchocoZAPが地場企業の顧客を獲得しているという側面もあり、会員の獲得競争は激化しています。
ライザップが恐れるシナリオがフィットネス市場の冷え込み。健康志向が高まっているのはコロナ禍で自宅時間が増え、運動不足だと感じる人が増えたため。第一生命経済研究所は運動不足に対する意識調査を行っています(「コロナ禍での運動不足問題を振り返る」)。それによると、2020年5月の調査で運動不足だと感じている人の割合は31.3%で、2021年9月は46.3%まで高まっています。
しかし、2022年9月には37.7%まで下がりました。
chocoZAPはビギナーをターゲットとしている反面、価格も安いために離脱しやすい特徴があります。
上記データを見ると、フィットネスブームの終焉が見えてきたかもしれません。そうなればライザップの好調もいつまで続くかわかりません。今後の動向については慎重に見つめていきたいところです。
取材・文/不破聡