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メタ認知とは何か?
教育現場やビジネスシーンで、『メタ認知』という言葉を耳にしたことはないでしょうか?メタ認知を把握し、コントロールすることで、多くのメリットがもたらされるといわれています。まずは、言葉の定義について解説します。
■メタ認知の定義
メタ認知とは、自分の認知活動を客観的に把握すること、またはその状態を指します。メタは、ギリシャ語の『meta』が由来で、『高次の』『超越した』という意味があります。自分を俯瞰的に捉える力といってもよいでしょう。
メタ認知の概念を最初に定義したのは、アメリカの心理学者であるジョン・H・フラベルです。心理学用語の一つですが、近年はビジネスや教育の場面でも使われるようになりました。
メタ認知は、メタ認知的知識とメタ認知的活動の二つによって成り立ちます。両者を活用することで、学習や仕事でより高い成果を出せる可能性があるのです。
■知識や情報を把握する「メタ認知的知識」
メタ認知的知識とは、自分のメタ認知についての知識全般を意味し、以下の三つに区別されます。
認知特性に関する知識
認知特性に関する知識とは、『情報を文字で理解するのが苦手』『一度に多くのことを言われると混乱する』など、自分の認知の特徴についての知識です。
課題に関する知識
課題に関する知識は、『長時間の事務作業はミスが多い』『桁が増えると計算に時間がかかる』など、認知活動に及ぼす課題の影響を指します。
課題解決の方略に関する知識
課題解決の方略に関する知識とは、『視覚情報と結び付けて情報を整理した方がよい』『チェックリストを使って見直しをすべき』といった、認知活動の課題を解決するための知識です。
■知識からの発展「メタ認知的活動」
メタ認知的活動とは、メタ認知的知識を基にして、実際にメタ認知を働かせることです。具体的には、以下の二つの活動に大別されます。
- メタ認知的モニタリング
- メタ認知的コントロール
メタ認知的モニタリングは、気付き・点検・評価といった自分の認知を観察する活動です。
メタ認知的コントロールは、モニタリング結果を踏まえ、感情をコントロールしたり、改善に向けた行動(目標設定・計画・修正)を取ったりすることを指します。
メタ認知能力が高い・低い人の特徴
メタ認知能力の高さは、人の言動にどのような影響を与えるのでしょうか?メタ認知能力が高い人と低い人の特徴の例を解説します。
■メタ認知能力が高い人は理性的で気配り上手
メタ認知能力が高いと、自分自身の感情をうまくコントロールできるようになります。自分が置かれている状況を冷静に観察し、相手と適切な距離を保ってコミュニケーションを取れるため、周囲からは理性的で気配り上手な人と見られるケースが多いようです。
環境や状況が変わったときに、柔軟に適応できるという特徴もあります。メタ認知能力が高い人は、自分に足りないスキルを積極的に学んだり、新しいアイデアを取り入れたりして変化に対応できるためです。
■メタ認知能力が低い人はセルフマネジメントが苦手
メタ認知能力が低い人は、セルフマネジメントがあまり得意ではありません。セルフマネジメントとは、自分の感情や行動を管理する能力を指します。
例えば、上司に厳しく注意されたり、仕事で失敗したりすると、「自分なんて……」という負の感情から抜け出せなくなる場合があります。
感情に任せた場当たり的な言動が多いため、ビジネスシーンでは、業務効率の低下や課題解決の困難に直面するでしょう。思い込みが激しく、良好な人間関係を築きにくい傾向もあります。
メタ認知を高める3つのメリット
ビジネスや人材育成の現場などでは、メタ認知能力を高める重要性が強調されています。メタ認知能力が向上すると、どのようなメリットがもたらされるのでしょうか?
(1)コミュニケーション能力が向上する
コミュニケーション能力とは、相手と円滑に意思疎通ができる能力です。ビジネスシーンでは、自分の意見をわかりやすく伝えられる人や相手の言いたいことを的確に理解できる人、相手のレベルに合わせた会話ができる人は、コミュニケーション能力が高いと見なされます。
メタ認知能力を高めると、自分や周囲の状況を客観的に把握できるようになります。多角的に物事を捉えられるため、相手や状況に応じた柔軟なコミュニケーションが可能となるでしょう。協調性も高まり、良好な人間関係を築けます。
(2)自分自身をコントロールできる
メタ認知能力が低い人は、自分の感情や行動を制御するのが苦手です。トレーニングによってメタ認知能力を鍛えれば、自分自身をうまくコントロールできるようになり、無用なストレスを抱えにくくなるでしょう。
例えば、自分のプレゼンテーションが不評だった場合、メタ認知能力が低い人は「私はやっぱり駄目なんだ」と落ち込んで、仕事が手につかなくなります。
メタ認知能力を高めると、「この説明では確かにわかりにくいかもしれない(観察)」「図や具体例を入れてみよう(修正)」と冷静に改善策を立てられます。
(3)問題解決能力が磨かれる
メタ認知能力を高めれば、問題解決能力が向上します。問題解決能力とは『問題を解決に導く能力』のことで、以下のようなプロセスで成り立っています。
- 問題を定義する
- 原因を特定する
- 課題を設定し、解決策を立てる
- 解決策を実行し、結果を評価する
これらのプロセスを冷静に進めるためには、メタ認知能力が欠かせません。問題の本質を客観的かつ理論的に捉えられれば、よりスムーズに最善策を導き出せます。
視座を上げて全体を俯瞰することで、これまでとは全く違ったアイデアが生まれる可能性もあるでしょう。
メタ認知を高める2つのデメリット
メタ認知には、メリットとデメリットの二つの側面があります。メタ認知が働きすぎると、自分らしさを発揮できなくなったり、思考が過剰になってしまったりする可能性も否定できません。
(1)自分らしさが損なわれる
メタ認知能力が高い人は、自分自身を冷静に観察できます。自分の置かれた立場や相手の状況を理解することはコミュニケーション能力を高め、人間関係を円滑にする一方で、同調圧力や忖度(そんたく)を生み出すケースがあります。
特に日本人は、空気を読みすぎて、自分の意見をはっきりと言えない人が少なくありません。周囲に順応しようとするあまり、自分らしさが損なわれてしまったり、気を使いすぎて疲弊したりするというデメリットも考えられるでしょう。
(2)迅速に行動できなくなる
自分の感情や直感に従って生きる人には、行動力があります。メタ認知能力が高まりすぎると、人によっては『考えすぎ』によって、迅速な行動ができなくなるかもしれません。
自分の気持ちよりも、客観的な評価やリスクを優先的に考えてしまい、新たな物事に挑戦しにくくなる人もいます。考えすぎの状態に陥った場合は、周囲に助けを求めるのが賢明です。メタ認知能力が高い人なら、いつ、どのタイミングで、誰に相談すればよいかが分かるはずです。
脳が疲弊すれば、注意力低下につながるため、自分へのケアも忘れずに行なう必要があります。