P&G出身のグーグル合同会社代表奥山氏がP&Gで学んだスキルを語る
「P&Gマフィア」と呼ばれる、P&G出身のマーケターたちが様々な業界で成果を出していることが知られているが、発表会では1989年~2016年にP&Gに在籍した、P&G元代表取締役社長、現グーグル合同会社代表 奥山真司氏が、P&Gで学んだスキルについて語った。
「リーダーシップはイノベーションが想像されていくために絶対に欠かせないスキル。P&Gは人材を育成する力が体系化され、だれもがリーダーシップを発揮できるような人材育成のシステムがあり、カリスマ的なリーダーシップを要求しないのです。
リーダーシップには『考える』『響く』『伝える』の3つがあると思っています。探索的で戦略的な思考能力、対話ベースのコミュニケーション能力、伝えるべき形を作って、自分だけじゃなく他者を成功させる能力。この3つをP&Gで学ばせてもらいました。
コミュニケーションは非常に大事ですが、ディベートとダイアログは全然違う概念で、ディベートからは新しいソリューションは生まれない。ダイアログは新しいヒントを見つけるためのコミュニケーションの手段だと思っています。
ダライラマ14世の名言にあるように、ただ話をするだけでなく、互いの話に耳を傾け対話をすることで新しい解決の糸口を見つけるかもしれない、ダイアログとはまさにそういうことだと思います。
江崎グリコに在籍していたとき、ディベートで『子どもが夏に食べるアイス市場でシェアを取るにはどうすればいいのか』という激しい論争が繰り返されました。対話的な能力がある人たちから、『そもそもアイスは子どもが夏に食べるだけでいいのか?』という問いかけが生まれて、そこから冬に大人も食べる高付加価値のアイス市場を作るヒントがどんどん出てきました。
コミュニケーションで一番大事なのは、本質的な問いを立てるということ。コミュニケーションは解決策を考えるところから始まると考える方が多いですが、一番のコミュニケーションは最初にいい質問ができるかということなんです。
P&Gのすごさは、コミュニケーションのすべては問いから始まるというのを徹底的に教わること。目的が先にあって目標が後にある。目的と目標を混同している人たちがたくさんいますが、そこをきちっと体系づけて学べるのです。
結論が先というのもP&Gでは当たり前だったこと。これはなかなか難しくて、僕も若い頃は結論を言って後から理由を考えていました。理由がなくても先に結論を言わなきゃいけないというのも大事で、大事なことを後回しにしない。それは仮説ベースであってもいいんです。
もうひとつP&Gの強いところいえばワンページメモ。1ページですべてを書くというもので、シンプルで明快で、簡潔にまとめて、子どもが聞いてもわかるような言葉で伝えなさい、ということを徹底的に習ってきました。
人を動かす時、示唆を与える(suggest)、命令を下す(direct)、指導する(instruct)の3つがありますが、P&Gは徹底的なサジェスト思考だと思います。見えないものを下から持ち上げるというのがサジェストですけども、見せてあげるが、その後は自分で考えなさいという、解を出さずに自身で考えさせるコミュニケーションは本当に徹底しているなと思います。
人間にとって一番難しいのは、起こっている具体的なことを抽象化する能力です。P&G出身者はどこに行っても成功しているとよく言われますが、抽象化する能力と、それを再現化させる能力を習得する人がP&Gでは非常に多いので、どの業界に行っても、その型を使ってどんどん成功するのではないでしょうか」(奥山氏)
【AJの読み】“P&Gマフィア”を輩出し続ける、P&Gの戦略的コミュニケーション手法が無料で学べるチャンス
P&Gは 社外向け研修プログラムの提供に関して豊富な実績があり、同社が独自に開発した 「インクルージョン研修(2016 年~)」と「アライ育成研修(2021年~)」の2つの研修を無償で提供している。
それぞれの研修では、職場内における多様性・インクルージョン推進や LGBTQ+への理解増進を試み、これまでに延べ 900社以上の企業・団体に向けて P&G の知見やノウハウを共有してきたが、今回はコミュニケーション力にフォーカスしたプログラムで、より実践的な内容になっている。
今回登壇した奥山氏、グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン 代表取締役社長 野上麻理氏、江崎グリコ 常務執行役員 CFO 高橋真一氏、元日本コカ・コーラ CMOで現Jukebox Dreams代表取締役社長 和佐高志氏、刀 代表取締役CEO 森岡毅氏など、列挙した以外にもマーケティングやイノベーションのプロを多く輩出しているP&G。
優秀な人材を育てる同社の研修プログラムの一端を無償で共有できる絶好のチャンスといえるだろう。
文/阿部純子