怒りを客観視できない人が増加中
不安の多い世相を反映しているのか、いらいらしている人が増えている印象がある。
実際、「日本人の国民性調査」(統計数理研究所)の「この1ヶ月間にいらいらしたことがあるか」という質問に「ある」と回答した人の割合は、調査年を追うごとに増加。いらいらとは、弱い怒りであり、何かと怒りっぽくなりやすい環境にわれわれは生きている。
怒りが蔓延する理由の一つとして、「自身の怒りを客観的に見ることができなくなった」ことを挙げるのは、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の代表理事・安藤俊介さんだ。
「怒りを客観的に見る」とは、「自分はこんなことで怒っているのだな」という冷静な視点。この視点を欠くと、他人から見れば滑稽なほど怒っていても、それを自覚できなくなる。職場や家庭で、こうした怒りを繰り返していれば、人間関係に致命的な結果をもたらすのは間違いない。
止まらないいらいらの防止策はあるのだろうか? 安藤さんにうかがった。
6秒かけての深呼吸で怒りは収まる
コロナ禍が終わって、オフィスで同僚と顔を合わせる機会が多くなりました。リモートワークではなかったストレスが増えたせいか、いらいらすることも多いようです。「イラっ」ときたときに、その感情を鎮めるコツはあるでしょうか?
「6秒ルール」というのがあります。怒りが生まれてから6秒あれば理性が働き始めるので、反射せずに6秒待とうよというものです。このとき、気持ちを落ち着かせるため深呼吸をします。3秒かけて吐いて3秒吸う。これで6秒です。「一呼吸置こう」とよく言いますが、まずは深呼吸をしてみましょう。
また、スケールテクニックと呼ばれる方法があります。自分の怒りが、10段階でどれくらいの強さなのか点数をつけてみるものです。怒りはとても幅のある感情です。いつも強く怒っているわけではなく、そこには強弱があります。今のは2くらい、4くらいといった具合に点数をつけてみることで、怒りを客観化することができ、気持ちを落ち着かせることができます。
正しい怒りとはリクエストを伝えること
注意したいのは、怒りの感情をコントロールするのは大事だが、「怒ってはいけない」わけではない点だ。安藤さんは、「怒れないリーダーが増えている」と指摘しており、必要であれば部下に怒りの感情をうまく伝達することの重要性も説く。
「怒ることは相手を責めることでも、反省させることでもありません。
怒ることの一番の目的は、今どうして欲しいか、これからどうして欲しいかを伝える“リクエスト”なのです。怒るのが上手な人は、リクエストを出せるのが上手な人と言えます。怒ることに抵抗を感じている人は、リクエストを伝えることが目的であると、視点を変えることで、メッセージを送りやすくなるのではないでしょうか」
怒りの客観視に役立つカードゲームが登場
冒頭でも述べたように、自分の怒りを客観的に見ることはとても大事。そのためのトレーニングとして誕生したのが、「アンガーマネジメントゲーム 怒りのツボ・当て~る!」という名のカードゲームだ(下写真)。
このカードゲームは、安藤さんの監修のもと、ゲーム開発者の高橋晋平さんが考案したもの。昨年12月にメガハウスより発売され、全国の玩具売場やインターネットショップなどで販売されている。
ゲームのコンセプトは、仲間内で互いの怒りのツボを開示しあうことで、怒りを客観視し、無用の怒りを減らすというもの。会議や研修の場でアイスブレイクの一環として遊ぶことも想定されているが、もちろん家族や知人同士でプレイしてもいい。
ルールは簡単。54枚ある「怒りのできごとカード」に書かれたお題を、参加者の1人がランダムに1枚引き、どれほどのレベルの怒りを感じるかを、みなで当てっこするというもの。
例えば、「しゃべると必ず自分が優位に立とうとするか、自慢話しかしないヤツがいる!」と書かれたカードを引いたとする。自分ならそれが、0から10のいずれかの怒りの度合いであるかを、ひそかに決める(0~10の数字が書かれた赤い「温度計カード」を選ぶ)。
その度合いを他の参加者が推測して、テーブルに並べた0から10の緑の「温度計カード」を指す。数字がどんぴしゃりな参加者は2点を得る。怒りの度合いを決める人を交代しながら、これを繰り返し、最初に5点に到達した人が勝利する。