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【ヒット商品開発秘話】1957年に誕生した「ビゲン」から登場した〝第3の白髪染め〟が大ヒット

2024.02.15

 中年以降になると目立ってくる白髪。実年齢より老けて見えるので、隠すために家庭で白髪を染める人も多いことだろう。

 家で白髪を染めるときに使うヘアカラーで現在注目を集めているのが、ホーユーが2023年9月に発売した『ビゲン 泡クリームカラー』だ。

 注目を集めている理由は、クリームと泡を融合した新剤型を採用したこと。しっかり密着するクリームの染毛力と、伸びやすい泡の使いやすさを兼ね備えている。ワンプッシュするだけでクリームと泡が同時に吐出される。

 カラーは全7種。2023年12月までに累計で69万個超が出荷されている。

カラーは左からモーヴブラウン、シフォンブラウン、フォギーブラウン、ナチュラルブラウン、ダークブラウン、リーフブラウン、ヴェールアッシュ

「古臭い」「おばさんくさい」イメージのブランドをリブランディング

 ヘアカラーは主にクリームと泡の2つの剤型がある。クリームは染毛力が高いものの後ろや内側が塗りにくい、泡は塗りやすいものの液ダレがして染毛力が弱いという印象が持たれていた。どちらも一長一短あり、ユーザーは諦めや妥協を感じながら使っていた。

『ビゲン 泡クリームカラー』の開発背景には、ヘアカラーの剤型に対するこうした不満があった。実際、同社が市販の白髪染めに関して調査した際、使用している白髪染めについて泡タイプのユーザーで30.1%、クリームタイプのユーザーで33.6%が「不満がある」と回答している。

市販の白髪染め「クリームタイプ」「泡タイプ」の不満点(ホーユー「白髪染めの満足・不満調査」2023年7月実施より)

市販の白髪染めの不満の有無(ホーユー「白髪染めの満足・不満調査」2023年7月実施より)

 開発の着手が社内で承認されたのは2022年4月。プロトタイプを用いて2022年4月にユーザー調査を実施した結果、高い評価を得ることができたことから商品化にゴーサインが出た。

 クリームと泡を融合した新剤型のアイデアは、開発に着手する1年半ほど前に研究開発部門から社内に提案されたものだった。

 企画を担当したコンシューマーマーケティング本部商品企画室商品企画1課 係長の真野梨佳さんは、次のように振り返る。

「商品開発チームは自信を持って提案しましたが、既存の商品と差別化できるほど差別化できるものなのか?といった点から疑念が持たれました」

 提案当時の社内の反応は弱く、さほど関心が持たれなかったが、それでもプロトタイプをつくってユーザーの反応を確かめたのは、『ビゲン』ブランドのテコ入れが迫られていたからであった。真野さんは次のように話す。

「『ビゲン』は歴史の長いブランドですが、『古臭い』『おばさんくさい』という印象が強く、最近は売上も落ちていました。ブランドを立て直すためにリブランディングし、これからの柱になる新商品を立てないとならないという課題がありました。私たち商品開発チームは、この新剤型が次の『ビゲン』の柱になっていくのではないか、と強く感じていました」

『ビゲン』が変わったことを商品から印象づけるには、『ビゲン』が長年培った技術力を生かした独創的な特長が不可欠。そのことが社内で認知され始めていたことから、新剤型をユーザーに評価してもらうことにした。

左右ではなく上下に同時吐出させた理由

 クリームと泡はワンプッシュで同時に、上下に分かれて出てくる。研究開発を担当した総合研究所 製品開発第1研究室製品開発C1課 係長の和田一輝さんは次のように話す。

「クリームと泡の出し方には、上下のほか左右もありましたが、上下でないと適切に吐出できず商品として使うことができませんでした」

 ワンプッシュするだけで2つの剤が出てくるという方式は、同社ではすでに、『シエロ ヘアカラークリーム』『同 ムースカラー』で実績があった。容器として1剤(アルカリ剤、染料)と2剤(酸化剤)を納めたエアゾール缶が計2本内蔵されており、両者を左右から泡やクリームで出して混ぜ合わせる形になっている。

『ビゲン 泡クリームカラー』でも容器として2本のエアゾール缶を内蔵し、1剤が泡、2剤がクリームになっている。ワンプッシュするとクリームと泡が自然に出てくるのは、上下に分かれた吐出口の奥にある開口部の大きさを調整した結果。完全に開けきっておらず、クリームと泡がキレイに分かれて出てくる大きさになるように設計した。

ワンプッシュでクリームと泡を同時に吐出

吐出口の奥は上下それぞれ、半分程度しか開いていない

「色味の検討も含めてですが、つくったサンプルは半年ほどで200種類以上になります」と和田さん。エアゾール缶で先行した『シエロ』2商品のノウハウは生かしたが、クリームと泡を同時に出して混ぜ合わせやすいようにすることは簡単ではなく、試行錯誤を重ねることになった。

ユーザーが高く評価した新剤型のテクスチャー

 クリームと泡を融合した新剤型は、よく伸びるがピタッと密着するテクスチャーを実現した。ヘアカラーでは例がないテクスチャーで、『ビゲン 泡クリームカラー』の肝。しっとり感のあるクリームともっちり濃密な泡を組み合わせて実現した。真野さんは次のように話す。

ヘアカラーでは例がない、よく伸びるがピタッと密着するテクスチャーを実現

「2022年6月にサンプルをユーザーに触っていただいたとき、『こんなの待っていました』『早く試したい』といった感想が聞けました。今までにない新感触は、この商品の優位性を高めることができるものになると確信することができました」

 新剤型には、ヘアカラーの機能を発揮できるのか?ユーザーが支持したよく伸びてピタッと密着するテクスチャーは簡便性と染毛力を両立できるのか?といった課題があった。

 課題をクリアするため、試作を重ねては染毛テストを実施。消費者テストだけではなく真野さんや和田さんといった社内のスタッフも自分の髪を使って伸び具合や密着力などを確かめることもあった。和田さんは次のように振り返る。

「クリームと泡はテクスチャーがまったく異なります。最後に混ぜ合わせるので、混ぜ合わせるのに適した泡とクリームをつくらないといけません。両者をなじみやすくするのが大変でした」

色味は落ち着いたナチュラルなものに

 色味もこれまでの『ビゲン』から見直した。いままでより赤みを抑え、柔らかな髪色になるようにしたという。和田さんはこう明かす。

「『ビゲン』ではこれまで、染まったことが実感できるよう赤みやオレンジが強いブラウンにすることが多かったのですが、昨今のサロン市場の傾向から落ち着いた色味にすることにしました。そのため赤みを抑え、ナチュラルな色合いに近づけることにしました」

 色味については以前から「赤みやオレンジっぽさが目立ちギラついた感じになる」といった不満の声があがっていた。新商品ということもあり市場の声を踏まえて自然な色味に近づけた。

「第3の白髪染め」をキーワードにした消費者コミュニケーション

 新剤型を採用したことで悩ましかったのが、消費者に向けたベネフィットの打ち出し方。社内でブレーンストーミングを実施したり広告代理店の力を借りたりして検討を重ねた。

 検討を重ねた末に生まれたキーワードが「第3の白髪染め」。クリーム、泡に続く新しい剤型をという意味を表したもので、消費者コミュニケーション全般で活用することにした。その一方で、パッケージなどでは「塗りやすいのにしっかり染まる」と機能の特長をストレートに表現した。

 メインで実施した消費者コミュニケーションはテレビCMの放映。2023年 11月から俳優の寺島しのぶさんをイメージキャラクターに起用したものを流し始めた。

 販促ではこれまで、サンプリングと全額返金キャンペーンに取り組んだ。

 サンプリングは9月から10月にかけて実施。大きなところではコスメ・化粧品・美容の総合サイト『@cosme』上で500名ほどに配布した。サイトには購入したユーザーとサンプリングで配布されたユーザー合わせて148件のクチコミが投稿されており、評価も星7つ中5.1と高評価を得ている(2024年2月10日時点)。クチコミを見る限り、「塗りやすい」「よく染まる」など新剤型の特長を気に入っている様子がうかがえるという。

 全額返金キャンペーンについては9月から12月にかけて実施。「商品に自信があり、一回使っていただければ必ず良さが伝わると確信していたことから、全額返金という形でトライアルを後押しする施策を実施することにしました」と真野さんは話す。

ホーユー
コンシューマーマーケティング本部商品企画室
商品企画1課 係長
真野梨佳さん

総合研究所 製品開発第1研究室
製品開発C1課 係長
和田一輝さん

 ユーザーはこれまで同様、50代が中心だが、他の『ビゲン』ブランドの商品より白髪染めを使い始める人が多くなる40代の購入比率が高い。これまでの『ビゲン』ブランドとは少し異なり、やや若い層をはじめ、今までの『ビゲン』ユーザーとは異なる新規層を取り込めている。

取材からわかった『ビゲン 泡クリームカラー』のヒット要因3

1.徹底した市場調査

 ヘアカラーの剤型で一般的なクリームとはそれぞれ、優れた点があると同時に不満点もあった。新剤型を採用したことで、クリームや泡に不満を持ちつつも使い続けていた人たちに訴求をした。

2.既存剤型のいいところ取りを実現

 新剤型はクリームと泡を手のひらに同時に出し、その上で混ぜ合わせると、よく伸びるがピタッと密着するテクスチャーになる。クリームと泡の優れた点のいいところ取りを実現し、簡便性と染毛力を両立することができた。

3.インパクトとわかりやすさを併用した消費者コミュニケーション

 新しい剤型であることを示すキーワードとして「第3の白髪染め」を打ち出し、消費者コミュニケーション全般で活用。インパクトを重視したが、その一方でパッケージやテレビCMで、塗りやすいのにしっかり染まることをストレートに伝えた。

***

『ビゲン』が誕生したのは1957年。「古臭い」「おばさんくさい」というイメージは歴史あるブランドゆえだが、そんなブランドイメのージを変えるべく、新剤型、クリームと泡が上下から同時に吐出される構造に挑戦した。どちらも特許出願したほど。長い時間をかけて培った技術やノウハウがある歴史あるブランドだからこそ、「第3の白髪染め」である『ビゲン 泡クリームカラー』は実現したといってもいい。

製品情報

https://www.bigen.jp/awacream/

(文/大沢裕司)

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