ビジョンの策定方法
ビジョンは経営者の思い付きではなく、企業のビジネス環境に即したものでなければなりません。従業員の意見を聞いたり、環境分析をしたりするプロセスを怠らないようにしましょう。ビジョン策定の流れとポイントを解説します。
■まずは現状把握
ビジョン策定の中心となるのは、経営者です。ただし、経営者が独断で考えたビジョンは、従業員の価値観と一致せず、現場になかなか浸透しない可能性があります。コミュニケーションの機会を設けたり、アンケートを実施したりして、従業員の考えや意見を集めましょう。
PEST分析や3C分析、バリューチェーンといった分析手法を使い、企業の現状を把握することも欠かせません。社会のデジタル化や市場の国際化により、ビジネス環境は目まぐるしく変化しています。環境分析を徹底しなければ、時代や環境に合わないビジョンを策定する恐れがあるでしょう。
■企業・業界の将来を予測
ビジョンは、将来のビジネス環境を想定した上で設定する必要があります。環境分析によって得られた結果を基に、企業・業界の将来の予測をしましょう。予測が不十分だと、ビジョンは絵に描いた餅になってしまいます。
例えば、『PEST分析』では、Politics(政治)・Economy(経済)・Society(社会)・Technology(技術)の側面からマクロ環境を分析します。
この先の変化が自社にどのような影響を与えるのかを議論したり、3~5年後の社会課題やニーズをピックアップしたりして、できるだけ多くの仮説を立てることが重要です。
シンクタンクや戦略コンサルティングファーム、リサーチ会社などから発信されている情報も最大限に活用しましょう。
■予測から自社のあるべき姿をイメージ
将来の予測から、自社のあるべき姿をイメージするのが次のステップです。利益追求は、事業の存続や組織の成長において不可欠ですが、企業のあるべき姿と必ずしもイコールではありません。
単なる営利上の目標ではなく、自社の強みを通じて、社会にどのような価値を提供していきたいのか、社会の課題やニーズにどう応えるのかを具体的にピックアップしましょう。
組織風土に合わないビジョンは、従業員の間に浸透しにくい傾向があります。古いやり方にこだわらず、新たな挑戦を大切にしている企業であれば、社会変化を迅速に見極め、イノベーションによって社会課題の解決に貢献することがキーワードとなるでしょう。
■ビジョンへの落とし込み・周知
ビジョンは、経営者や経営陣だけのものではありません。イメージを誰もが理解できる言葉に落とし込み、ビジョンとして完成させましょう。言語化するに当たっては、以下の点を意識します。
- 誰もが理解できるか
- 共感を得られるか
- 印象に残るか
- 具体的で分かりやすいか
- 経営理念との整合性が取れているか
特に、経営理念とビジョンに矛盾があると、従業員やステークホルダーからの共感を得られにくくなる点に注意が必要です。ビジョンの策定後は、社内外への周知を行います。
ビジョンを周知・浸透させるための施策
ビジョンは、従業員やステークホルダーの間に浸透してこそ真価を発揮します。単なるキャッチフレーズで終わらせないためにも、ビジョンを周知・浸透させる施策を講じましょう。
■ビジョンを伝え続ける
社内にビジョンを浸透させるには、伝え続けることが重要です。経営層は、ことあるごとにビジョンを語りましょう。コーポレートサイトに掲載しただけでは、周知したとはいえません。
従業員の意識の統一を図るために有効なのが、ビジョンに関する研修です。ビジョンの存在は認知していても、理解できていないという従業員は少なくないものです。
まとまった時間を確保した上で、ビジョン策定の背景や経営者の思い、達成に向けて取り組むべきことを伝えます。具体的な行動を日々の業務の中に組み込めれば、ビジョン実現が加速するでしょう。
■ビジョンに関する評価・表彰制度を設ける
ビジョンの内容は理解していても、具体的に何をすべきかが分からない従業員もいます。ビジョン実現に向けた行動を促すためにも、従業員を評価・表彰する制度を設けましょう。
例えば、ビジョン実現に必要な行動を盛り込んだ評価制度を策定すれば、従業員は自然とビジョンを自覚するようになります。
また、ビジョンを体現する人材を表彰することで、ロールモデル(理想像)が示されます。目指すべき方向性が明確になる上、モチベーションやエンゲージメントの向上にもつながるでしょう
評価制度や表彰制度を設ける際は、基準を明確にすることが重要です。曖昧な理由で評価すると、従業員の間で不平・不満が生じます。
■コミュニケーションの活性化を促す
ビジョンの形骸化を防ぐには、従業員同士の積極的なコミュニケーションが欠かせません。ビジョンについて深く考えたり、議論したりする機会が多いほど、社内外にビジョンがスピーディーに浸透し、従業員自らがビジョン実現のための行動を起こすようになります。
まずは、社内のコミュニケーション方法を見直し、情報共有やフィードバックを容易にできる環境を整えることが大切です。社内SNSやチャットツール、社内報は、部署の垣根を越えた積極的なコミュニケーションを促します。経営層や人事部は、研修やワークショップを定期的に企画しましょう。
構成/編集部