2. 勤務医の労働時間の特例的な上限水準(B水準・連携B水準・C-1水準・C-2水準)
年960時間(A水準)の時間外労働・休日労働の上限を一律に適用すると、一部の医療機関では医師不足等によって機能不全を起こすおそれがあると考えられます。
そこで、2024年4月以降に適用される労働時間規制では、都道府県によって以下のいずれかの指定を受けた医療機関(=特定労務管理対象機関)に限り、時間外労働・休日労働の合計時間の上限を年1860時間まで延長することが認められています。
(1)特定地域医療提供機関(B水準)
所在する地域の医療提供体制を確保するために、時間外・休日労働の合計時間が年960時間をやむを得ず超えてしまう医療機関
(2)連携型特定地域医療提供機関(連携B水準)
医師の派遣を通じてその地域の医療提供体制を確保するために、時間外・休日労働の合計時間が年960時間をやむを得ず超えてしまう医療機関
(3)技能向上集中研修機関(C-1水準)
臨床・専門研修を集中的に行わせるために、時間外・休日労働の合計時間が年960時間をやむを得ず超えてしまう医療機関
(4)特定高度技能研修機関(C-2水準)
高度技能の修得研修を集中的に行わせるために、時間外・休日労働の合計時間が年960時間をやむを得ず超えてしまう医療機関
3. 長時間労働を行う勤務医の追加的健康確保措置
2024年4月から適用される新たな労働時間規制の下でも、勤務医が長時間労働せざるを得ない状況は生じることが想定されます。そこで新制度では、以下の2つの追加的健康確保措置について定めています。
(1)月100時間以上の時間外労働および休日労働に関する追加的健康確保措置
(2)B・C水準の勤務医に関する追加的健康確保措置
3-1. 月100時間以上の時間外労働および休日労働に関する追加的健康確保措置
2024年4月以降は、勤務医の時間外労働および休日労働の合計時間は、原則として月100時間未満としなければなりません。
ただし、36協定において以下の事項を定めて適切に運用すれば、例外的に、勤務医に対して月100時間以上の時間外労働および休日労働を指示することが可能となります。
(a)時間外労働および休日労働の合計時間が月100時間以上となる見込みの勤務医に対して、健康状態に関する面接指導を行うこと。
(b)面接指導後遅滞なく、勤務医の健康を保持するために必要な措置について、管理者に面接指導担当医師の意見を聴かせること。
(c)面接指導担当医師の意見を勘案して必要と認めるときは、勤務医の実情を考慮して遅滞なく、労働時間の短縮や宿直の回数の減少などの措置を管理者に講じさせること。
3-2. B・C水準の勤務医に関する追加的健康確保措置
B水準・連携B水準・C-1水準・C-2水準が適用される医師は、年間の時間外労働・休日労働の上限が1860時間となり、非常に労働時間が長くなることが想定されます。
そのため、特定労務管理対象機関では、B・C水準が適用される勤務医について、以下の追加的健康確保措置を講じることが義務付けられています。
(a)連続勤務は28時間以下(初期臨床研修医は原則として15時間以下)
(b)勤務間インターバルを9時間以上確保(宿日直許可がない当直明けの日は18時間以上確保)
(c)連続勤務時間制限・勤務間インターバル確保が実施できなかった場合には、代償休息を付与
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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