深夜の霞が関で数兆円の国家予算とにらめっこをしていた3か月後、私は地方の商店街で駄菓子屋と子どもたちの遊び場、「つばめベース」をつくっていた。子どもだけでも親子でも、誰でもふらっと遊びに来られる「つばめベース」は、新潟県燕市に拠点を置くNPO法人フードバンクつばめが運営している“子どもたちの居場所”だ。
11月1日のオープン以来、「つばめベース」には多くの子どもたちが訪れ、建物の中は子どもたちの笑い声や走り回る音が響き渡るようになった。地方の商店街に大勢の子どもがいるという“ありそうでなかった”日常が、「つばめベース」の完成とともに見え始めている。
そんな「つばめベース」だが、その立ち上げから日々の運営まで微力ながら携わっているのがこれを書く筆者である。本稿では、「つばめベース」がいかに特徴的な取り組みを行っているか、そしてその運営を通して見えてきた今後の地方にとって重要なことについてお伝えしたい。
子どもたちに“いて楽しい!”と思ってもらえる空間づくり
そもそも、「つばめベース」を運営しているフードバンクつばめ自体が、非常に多岐に渡る事業を行っていることはこれまでの記事でも述べてきたとおりである(元官僚が挑戦する新潟県・燕市での新しい共助システム「宮町食堂」と「つばめベース」|@DIME アットダイム)。フードバンクとして行う従来型の貧困対策だけでなく、教育支援や地域の食や生活の支援、交流の場の提供など、挙げたらキリがないほどだ。
そうした広範な支援の取組の中でも、「つばめベース」は主に子どもの居場所としての機能を有している。「つばめベース」は元をたどれば、燕市の隣の三条市で8年前から運営されている「三条ベース」を参考にしてできた施設だ(三条ベース オフィシャルサイト)。「三条ベース」を運営する高橋憲示さんの全面協力のもと、「つばめベース」は出来上がった。
「つばめベース」では、子どもたちが遊ぶための卓球台やおもちゃ、児童書など、子どもたちが“いて楽しい!”と思えるものを取り揃えている。小さい子どもはおもちゃで遊んだり、中学生は卓球で体を動かしたり、使い方はさまざまだ。
そして、子どもだけで来ても親子で来ても、「つばめベース」で遊んだり本を読んだりすることに一切お金はかからない。そうした気苦労なくふらっと来ることができるのも、「つばめベース」の特徴だ。
卓球台や本の読める休憩スペースだけでなく、ジャングルジムやハンモックなども
駄菓子を買ったりイベントを楽しんだりできる「つばめベース」
「つばめベース」は子どもたちの単なる遊び場だけでなく、昔懐かしい駄菓子屋も営業したり、イベントを開催したりもしている。買った駄菓子を食べながらイベントを楽しめるのも、「つばめベース」の魅力のひとつである。
ただ、「つばめベース」は、駄菓子で利益を得ることを目的としていない。あくまでたくさんの子どもたちに来てもらい、楽しんでもらうきっかけとして駄菓子屋を開店している。いうなれば、賑わいまでの“動線づくり”だ。
また、イベントの開催にあたっては、新潟屈指のお笑い集団「ナマラエンターテインメント」や地域の商店街ともタッグを組んで取り組んでいる。大勢の人が集うイベントを継続的に行っていくことによって、まちの賑わいづくりにも貢献していくことも「つばめベース」の役割だと考えている。
寄席イベントを開催したときの様子。子どもも大人も大勢の笑い声でいっぱいになった
「つばめベース」が地域に与えた影響
「つばめベース」のオープン後、まちには子どもたちが戻ってきた。燕市の商店街に限らず、地方の商店街で子どもたちがはしゃぐ姿を見る機会はそう多くはないだろう。「つばめベース」が位置する商店街でも、長らく子どもたちの姿はほとんど見えなかったのが実態だ。
子どもたちがまちに戻ってくると、今度は大人たちがまちを見る目線も変わってきた。地域の商店街が主催するイベントがつばめベースを会場にして開催されたり、市議会の一般質問でも商店街周辺での交通安全対策が取り上げられるようになった。目に見えるかたちでの子どもの流入が、まち自体を徐々に動かしている。
地域の商店街のマスコットキャラクター「燕太くん」とのジャンケン大会