「デカフェ=高くてまずい」をビジネスで変える
アメリカで企業のビジネス課題をデザインで解決する「戦略デザイン」のコンサルタントに従事していた岩井氏は、 “コーヒーの聖地”と呼ばれるポートランドで、当時日本ではまだ知られていなかったスペシャリティコーヒーに出会い、コーヒーのおいしさに目覚めた。
だが帰国して、妊娠中でカフェインを控えていた娘とともにデカフェを飲んだ時、その味(のひどさ)に驚いたという。それをきっかけにデカフェ業界に興味を抱き、リサーチしたところ、アメリカではデカフェのシェアは約32%だが、日本のデカフェ輸入量はコーヒー全体のわずか 1%未満であること、市場が小さいことが理由で、高くてまずいというイメージのデカフェが多いことを知る。ビジネスの戦略デザインのプロである岩井氏は、「この課題をビジネスで解決できるのではないか」と考えたという。
コーヒーの味や安全性をそこなうことなく、カフェインだけを取り除くことができる技術を求めてさまざまなリサーチを重ねる中で、1980年代から欧米の一部メーカーで実用化されてきた「超臨界技術」に行きつく。その分野で先駆的な研究を行っていて、本人もコーヒー愛好者である東北大学の渡邊賢教授に協力を依頼し、共同研究を開始。カフェイン除去の前後の工程でも旨味成分や香気成分の流出を軽減する独自のノウハウを取得した。
岩井氏は2018年に、超臨界CO2流体技術による独自のカフェイン除去プロセス「CRAFT DECAF PROCESS」について、東北大学と共同研究開発を行う研究開発型スタートアップ企業「ストーリーライン株式会社」を創立。ルワンダのパートナー企業と提携してコーヒー豆の独自輸入ルートを確保した。将来は現地にデカフェ工場を設立することで、これまでの複雑化した流通の問題を解決して価格を抑えた商品の販売を開始する予定だという。
同社は当初、妊娠中の女性など、カフェインを摂ることができないニッチな層をターゲットにしていた。しかし今後の少子化や市場のポテンシャルを見据え、コーヒーを飲む機会が日常的に多いビジネスマン層に着目。2022年10月17日、全てのドリンクのカフェイン量を選択可能な新しいコンセプトのコーヒースタンド「CHOOZE COFFEE(チューズコーヒー)」を、日鉄日本橋ビルにオープンした。
▲2022年10月17日に、「日本橋」駅直結の日鉄日本橋ビルにオープンした「チューズコーヒー」
▲チューズコーヒーではルワンダ現地パートナーと提携したコーヒー豆を直接取引し、現地でデカフェ加工することで流通の問題を解決し価格を抑える戦略