多分野で共創するプラットフォーマーへ
このように、マイクロ波の活用自体は行われてきたわけだが、産業利用できるような大型化の技術がなかった。同社はそこに目をつけ、2000年代に技術開発に乗り出し、見事成功した。
しかし、はじめは前例がないため、モノづくりに採用する企業はなかったという。同社はまずは自社工場でマイクロ波加熱を活用して、廃油からインク原料を製造し、事例をつくった。
つまるところ、少ない時間とエネルギーで、物体を加熱できる技術だから、用途の広がりは無限だ。従来よりずっとコンパクトな設備、プロセスで、あらゆる化学製品をつくれるようになる。
再生可能エネルギーを使った電気を活用すればカーボンニュートラルや省資源など環境面のメリットはあるし、時間やコストの問題で実現しなかった物質の開発が可能になる(ディスプレイや自動運転に使われる透明導電膜の材料「銀ナノワイヤー」の製造など)。
ただ、一社では、それはかなわない。
2019年、同社は製造・販売からビジネスモデルを転換して、さまざまな企業や研究機関にマイクロ波加熱技術を提供する、プラットフォーマーに脱皮した。
現在、環境、医薬、電子材料といった分野の企業にソリューションを提供し、材料・原料を共創する。化学産業はあらゆる製造業のベースだから、そのインパクトは大きい。
例えば、鉄より強くアルミより軽いという炭素繊維は、製造時のエネルギーやCO2排出が大きく、そのためのコストも高かったが、同社はそのプロセスを改善。従来の50%程度まで省エネできる新素材を製造する。
また、自動車のテールランプなどに使われるアクリル樹脂の再生はこれまで不可能だったが、同社は高効率、低コストでリサイクルする技術開発に成功。現在、工業化に向けて動いている。
ジャンルにとらわれない発想で突き抜けた
それにしても、「マイクロ波加熱の産業利用」という技術が、21世紀の今まで実現せず、化学業界では不可能という認識が常識だったのはなぜだろうか? 電子レンジは50年以上も前に、一般家庭に普及しているのに、だ。
吉野氏は「マイクロ波が物理の技術だからではないか」と推測する。
産業を大きく変える技術だとわかっていても、化学メーカーが分野の違う技術に投資して、真剣に取り組むことはなかった、というのだ。同社が開発に成功したのは、マイクロ波加熱の可能性を見出し、常識にとらわれず取り組みをはじめたこと自体が、もっとも大きな要因なのだ。同社はその常識にチャレンジし「マイクロ波反応・装置をデザインする技術」を構築したり、「化学者」「物理学者」「プロセスエンジニア」「解析エンジニア」「生産技術者」からなるチームを有している。
吉野氏は、「イノベーションは業際的な領域で起こる」とも指摘する。
業界と業界の間をみつけたり、横断することで新しい技術が実現し、産業を変えていく。時代を切り拓くビジネスパーソンにとって、またとないヒントを与えてくれる事業のストーリーだ。
取材・文/ソルバ!
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