現代のバーチャルな出会いに最適化した仕組み
「恋愛は自由でオープンなものだ。立場なんて関係ないし、傷つくことを恐れていたら、恋は成就しない! 」
斬新な仕組みのマッチングだからこそ、こんなロマンチックな反論もあるかもしれない。
気持ちはわかるが、エール ゴエンの狙いはなかなかに深い。
エール ゴエンが企業を審査する基準は、「女性の活躍」「産休・育休後の職場復帰」「子育てサポート」などの社内環境(第三者機関の評価)。会社の規模やブランドを、審査しているわけではない。
男女が結婚した後、出産、育児、介護など、家庭内の負担は、未だ女性側に偏っているのが現実。そのために女性がキャリアを諦めざるを得ないケースが多く、だからこそ独身者が結婚に踏み切れないという実情もある。
女性にとっては、結婚後の福利厚生は、キャリアを大きく左右する。自分の会社だけでなく、男性育休などパートナーの環境が大問題なのだ。
また、豊嶋氏はサービスの背景にもうひとつ、バーチャルな出会いの「情報量」を挙げる。
リアルの出会いでは、相手の表情や声、普段の立ち居振る舞いなど、友人の評価など、たくさんの情報をとって関係を進めていた。その中にはロマンチックな感情や衝動だけでなく、現実的な計算も、少なからずあったはずだ。
それと比べて、バーチャルの出会いでは、情報が圧倒的に少ない。だからこそ、AIで補完する必要があるのだと、豊嶋氏は指摘する。
同社の解析では、バーチャルの恋でも、チャットをはじめたり、直接会うなど、行動を起こすきっかけは直感でありインスピレーション。しかし、そのあと関係を深めるかは、ロジックで考える、と言う。
まず心が動き、コミュニケーションで相手を知り、AIで情報の隙間を埋めて、相互理解を深めていく。恋愛上手な友だちに相談するように、AIを使いこなすのは、オンラインでより幅広い出会いができる現代の知恵、いわば恋愛の進化形なのだ。
企業の導入が進んでいる理由
最後に、企業側が従業員の恋愛をサポートする意義について押さえておきたい。エール ゴエンに登録するには、年間数十万円のシステム利用料がかかり、さらに個人のサービス利用料を企業が負担するケースもある。
社会全体で労働力が不足するなか、人材を確保する意味でも、生産性を上げる意味でも、従業員のウェルビーイングは、優先度の高い課題だ。恋愛をサポートすることでプライベートを充実させ、生き生きと働いてもらいたいというニーズが、企業にはある。
また、少子化は企業にとって、商品やサービスを売る市場の縮小を意味する。若者が家庭を持ちやすい環境を整え、全体としての課題解決に取り組もうというマインドは、経営者の中には強くあると、豊嶋氏は分析する。
都会の大手企業だけでなく、人口減の問題が切実な地方の企業が、エール ゴエンの導入を進めているという。
クローズドなプラットフォームだから、大多数のライフスタイルを一気に変えるようなことはないかもしれない。しかし、働く人と企業のニーズ、少子化の社会課題解決まで、きれいに噛み合ったビジネスを知ると、新しい恋愛の輪郭がはっきりと見えてくる。
取材・文/ソルバ!
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