「生成AI」は〝生み出す〟より〝消す〟が注目される?
――2024年、気になっているテクノロジーはありますか
なかの:2023年、生成AIが盛り上がりを見せていました。この1年でも様々なサービスに組み込まれてきて、今後もそのトレンドは続き、順当に進化を続けるとはと思いますが、その中でも私が一番気になっているのは「消す技術」です。
生成AIはゼロから1を作りだすことに注目されていますが、1をゼロにしてしまうこともできてしまいます。例えば、写真である部分を消すことは容易ですが、AIによって「何かを消した世界を作る」ということが簡単にできてしまうのです。これはARやVRのような言葉で言うと「DR:減損現実」(Diminished Reality)という言葉で表現されます。カメラアプリに限らず、例えば、メガネ型デバイスを使って、自分が見たくないものを見ないで済むようにできてしまうかもしれない。視覚情報だけでなく、嗅覚、聴覚、いろいろ可能性を含めて、そのような世界になった時に、果たして良い世界になるのかどうかを考える必要があると思っています。
生成AIに関しても目の付け所が鋭いなかのさん
――なるほど。「減損現実」は一つのキーワードになりそうですね。先ほどお話にあった「アップサイクル」はどうでしょう
なかの:私たちが取り組んでいるモノの修復だけでなく、人間関係や地球環境など、もっと広い概念での「リペア」をとらえる動きが起こるかもしれません。
――人間関係までですか?
なかの:それこそ「修復すべきか否か」も含めて、人々が考えていく社会になったらいいなと思います。
――最後に、なかの様が様々なプロジェクトを通じテクノロジーとクリエイティブの橋渡しをする原動力を教えてください
なかの:一言でいうと「好奇心」です。アップサイクルなど、一見すると社会貢献のような側面もありますが、必要なテクノロジーの社会実装や順当な発展は専門家の方々がやってくれます。私の役割はテクノロジーから未来をプロトタイピングして、学んだ物は何かを社会や後世に伝えることだと感じています。
だからこそ面白いと感じたテーマに目を向けて、面白いと感じたものを作っていきたい。自分一人でテクノロジーのすべてを理解する必要はありません。社会の一員として、自分なりのテクノロジーの向き合い方を決めることが、テクノロジー飽和社会を生き抜くコツかもしれませんね。
取材・文/峯亮佑 撮影/木村圭司