失敗を乗り越え魂をこめてスタートした「タイミー」
とはいえ、起業への情熱は衰えてはいなかった。魂のこもっていない事業は成功できないことに気づいたことで、次にチャレンジする業種や業態については、自分自身が「心の底からやりたい!」「この負を解決したい!」と情熱を燃やせる領域に絞った。そんな中、ひらめいたのが、自身のアルバイト体験をヒントに、スキマ時間を使ってできることを提案してくれるアプリだった。
「Recolleを頓挫した後は、日雇いバイトに明け暮れていました。派遣会社からメールで案件が届くのを待たなければならなかったり、働きに行ったらブラックバイトだったり、労働環境が良くなかったみたいなことも数々経験してきました。そんな中、アプリひとつですぐ働けて、すぐに報酬が得られて、労働環境もすぐにわかるというサービスがあれば、自分自身も使ってみたいし、他の人にとっても利用価値が高いと思ったんです」
この発想をより具体化したのが、履歴書による応募も面接もなく、1時間から働くことができて、かつ、稼いだお金をその日にもらえるスキマバイトアプリ「タイミー」だった。さらに小川さんがこだわったのが事業者とワーカーの「相互評価システム」だ。
従来の求人サイトと違い、「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングさせるのがタイミーの特徴
「起業家は世の中の当たり前を疑うことで、イノベーションが起こせると思っています。単発バイトでも、応募者が本当にがんばってくれるかどうかって、履歴や面接では実際のところはわからない。提出する履歴書は改ざんできるし、面接もその場しのぎでそれっぽいことを言えますよね。にもかかわらず、そこで評価するのは矛盾でしかない。この矛盾を解決するのが、働いた結果を、事業者とワーカー相互に評価してもらうシステムでした。事業者側は労働環境の改善によって人を集めやすくなり、勤務実績の優れたワーカーは、よりマッチングしやすくなります。今までとは違う世界をつくっていけると思ったんです」
さらにもうひとつ、小川さんがタイミーに感じた手応えは、社会貢献ができるビジネスだったからだ。
「起業する大きな魅力は、社会貢献を実感できることだと思います。もちろんサラリーマンとして働いても、十分に社会貢献はできますが、自分のアイデアや意思決定に応じて、社会を動かせる力を持てるのは起業家や経営者だけの醍醐味です。日本には多くの社会課題があり、その中でも重要な労働力不足という課題を、自分たちがリードして、タイミーで解決していけると考えました」
立ち上げメンバーの採用には求人情報ウェブサイトやSNS、採用イベントを活用。コストを抑えつつ、優秀な人材を集めて、ついにタイミーのサービスを開始する。小川さんが立教大学3回生の時だ。
(明日公開の後編へ続く)
取材・文/安藤政弘 撮影/タナカヨシトモ