シリーズ「イノベーションの旗」では、技術革新に挑む企業の取り組みを紹介する。
なぜ本シリーズはイノベーションを注視するのか。
日本では30年間、給料が上がっていない大きな原因は、一人当たりの労働生産力が諸外国に比べて低いからだ。つまり付加価値のある製品を生みだせないでいる。付加価値のある製品はイノベーションが不可欠である。世界に君臨する大手テクノロジー企業のGAFAMも、イノベーションを武器に台頭したスタートアップ企業だった。時代が急速に変化する中、ビジネスパーソンも企業にとっても、技術革新は最重要課題である。
今回、紹介するのはイノベーションをアピールするスタートアップと、大企業のマッチングと協業を担う会社である。株式会社プロジェクトニッポン。この会社が年1回主催するILS(イノベーション・リーダーズ・サミット)の11回目が、2023年12月4~7日まで、虎ノ門ヒルズで開催された。会場には世界18か国を含む200以上のスタートアップのブースが出展、来場者+視聴者は過去最高の2万1871名。スタートアップと大企業の商談件数は約2900件。アジア最大規模のオープンイノベーションのイベントである。
ILSの仕掛人はプロジェクトニッポンの松谷卓也代表取締役社長。彼はどんな経緯で、スタートアップと大企業をマッチングさせて協業を促し、イノベーションを製品化する仕組みを考えたのだろうか。
株式会社プロジェクトニッポンの代表・松谷卓也さん。ILSに参加した企業がメッセージを書き込んだホワイトボードが事務所の壁にかかっていた。
起業精神の醸成、“これは将来性がある”
学生時代から起業をイメージしていた関西出身の松谷卓也は、新卒でリクルートに入社。リクルートは社員の起業を奨励する社風があると言われる。
起業情報誌に携わっていた2000年初め、経済産業省が後押する「ドリームゲートプロジェクト」という企画を担当した。ベンチャーやスタートアップの土壌が日本にほとんどなかった当時、起業の精神を醸成させて、起業家が増えるよう促すことがプロジェクトの趣旨だった。
イベントをはじめ、ウェブサイトを立ち上げて、起業に関心を持つ十万人を超える会員を募った。法律家や税の専門家等で構成するアドバイザーを組織し、起業したい学生や社会人に対してセミナーや相談会を企画。
「ドリームゲートプロジェクト」に携わり、この仕事に将来性を感じた松谷は、プロジェクトに本腰を入れるために、2004年に退職して今の会社を立ち上げた。36歳のときだった。
会社設立後はプロジェクトの一つとして、「カバン持ちインターンシップ」という企画も実行した。当時、スタートアップとして成功していた堀江貴文や、サイバーエージェントの藤田晋等の協力を得て、起業家を志す人間が彼らのカバン持ちをする。経営会議に出席したり、夜の会食の場に同席したり、起業家の心得を学ぶ実践企画を3年間続けた。
2007年に経産省が離れてからも、松谷はドリームゲートプロジェクトを引き継ぎ、維持・発展に尽力する。自社やプロジェクトのウェブサイトの広告収入等で、会社の売上げを立てたが、「あの時期が一番大変で、借金が2億円ぐらいに膨らんだ時期もありました」と、松谷は当時を振り返る。
3つのセクターが集うプラットホーム作り
ドリームゲートプロジェクトは、起業を目指す人たちをサポートする草の根ネットワークだが、10年間プロジェクトを運営してきた松谷の脳裏には、さらなる企画が具体化していた。松谷卓也は言う。
「日本には大学の研究室等で、地道に行われている基礎研究のセクターがあって、もう一つ、ベンチャーやスタートアップのゼロから1を立ち上げる精神力のあるグループがいる。一方で、大企業の人たちはゼロから1を生み出すのは得意ではないが、資金力やいろんなリソースを持っている。大学とベンチャーと大企業、交流がない各セクターをつなげるプラットホームを作ることができないかと」
その発想がILSに繋がるのだが、大学等でアカデミックな基礎研究を行っているグループとスタートアップは、これまでのプロジェクトの運営で接点があった。問題は大企業の賛同である。さてどうするか。松谷は言う。