年賀状の発行数は20年で6割減少
しかし、値上げによって一時的に増収に転換したとしても、取扱量の縮小を見ればそれが一時的なものであることは一目瞭然。中長期的な成長戦略が必要です。
日本郵政にとって頭痛の種になっていることの一つが、年賀状の減少。2023年用年賀ハガキの総発行枚数は16億7,600万枚でした。ハガキの料金は1枚63円なので、年賀状の発行だけで1,056億円稼いでいることになります。
20年前の発行枚数は38億6,500万枚でした。20年でおよそ6割が消失したことになります。当時は1枚50円でしたが、2,000億円近い収入になっていました。
Job総研「2023年 年賀状と歳暮の意識調査」によると、2024年の新年に年賀状を送らないと答えた人の割合は35.9%。20代は「送らない派」が6割にも及んでいます。送らない理由は、「他の手段で代用できるから」が5割でトップ。新年の挨拶は、LINEやInstagram、メールなど他の方法で行うようになりました。ハガキであることの意味が失われているのです。
日本郵便は、LINEで年賀状を送ることができるデジタル年賀状の「スマートねんが」を提供しています。今後はこのように、既存の枠にとらわれない新たな取り組みが必要になりますが、拠点となる郵便局や配達人員、そのネットワークを活用するものでなければ主力サービスとできないという矛盾を抱えています。
20代の6割が年賀状を「送らない」派
日本郵便と一連托生が義務付けられた日本郵政
日本郵政のホームページには、「日本郵政はなぜ上場したのですか。」という質問に対する回答が書いてあります。「経営の自由度の拡大を通じた、新商品や新規業務への取組みがお客さまサービスの向上につながるとともに、日本郵政グループ全体の収益基盤の拡大を実現させます。」というのです。しかし、上場後の日本郵政に経営の自由があるようには見えません。
日本郵政の増田寛也社長は、日本経済新聞のインタビューで全国に約2万4,000か所ある郵便局は、2040年をめどに整理が必要になると話しました。会社の収益性を考えれば、当然の判断です。
しかし、配送や金融の重要インフラである郵便局の閉鎖には、地方の議員や限界集落に暮らす人々からの反対論が根強く、簡単ではありません。これは郵政民営化が議論された際にも、さんざんやりとりがなされました。
郵便局は一部で昼休みを導入するとしていましたが、地方での調整ができず、一部延期された過去もあります。昼休みを導入することですら、簡単に進まないのです。
今年議論される郵便料金の値上げにしても、総務省に届け出た上で改正省令が必要です。
日本郵政は意思決定プロセスが極めて遅く、巨額の損失を出した経験からM&Aも半ば封じられています。そして、デジタルに侵食されて郵便という市場が消失しているのです。
しかも、日本郵政は業績が堅調なゆうちょ銀行の持ち株を売却して保有比率を下げていますが、不振の日本郵便は100%保有したまま。これは法律で、それを義務付けられているためです。日本郵政は郵便事業のくびきから逃れることができません。
正にジリ貧とも言える状態で、成長力をつけるのは簡単ではないでしょう。
取材・文/不破聡