クラウド型顧客管理ツール「Salesforce」は、世界で15万社以上の企業が採用し、その成功には創業者マーク・ベニオフの卓越なリーダーシップと革新的なビジョンが根底にあります。
そこで今回の米国起業家列伝シリーズは、ベニオフの半生とセールスフォースの成り立ち、成功の秘密について深掘り解説していきます。
コンピュターに夢中の少年時代
1964年にサンフランシスコで生まれたマーク・ベニオフは、父ラッセル・ベニオフが衣料品の小売チェーンを経営する様子を見ながら育ちました。
家族経営の小売りチェーンでは、父のラッセル氏が店舗ごとのデータを集計し、売れ筋商品を効果的に配置するため、平日も土日も欠かさず忙しく働いていました。そのなかで、ベニオフ氏は父の仕事への情熱と、経営においてデータと会計処理の重要性を学びました。
ペニオフが後にセールスフォースを設立する際には、この経験が役立つこととなります。
また幼少期から電子機器に大きな興味を抱いており、12歳の頃には既にコンピューターへの情熱に溢れていました。
その後、14歳のとき、初めてコンピューターである「TRS80」を手に入れ、15歳のときには自らが開発したソフトウェア「ハウツー・ジャングル」が75ドルで販売され、これがきっかけでコンピューターの世界にのめり込むようになります。
また16歳のとき、ベニオフは友人とともに「リバティ・ソフトウェア」という会社を設立し、さまざまなゲームを制作し、わずか半年で6,000ドル以上の収益を上げるなど、早くから才能を開花させていきます。
アップルでの経験とオラクル入社
南カリフォルニア大学進学後、自身の会社を経営する傍ら、アップルでのアルバイトを経験し、そこでスティーブ・ジョブズの姿勢や情熱にふれることができました。
なによりジョブズがどのようにして従業員を鼓舞し、革新的なアイデアを推進していたかを間近で目撃したことで、べニオフは後にセールスフォースでの経営においても、貴重な経験をしたと語っています。
その後、ラリー・エリソン氏が創業したオラクルで働くことになったべニオフは、オラクル史上最年少の副社長にまで昇進しました。
しかし、入社から10年が過ぎた1996年ごろに、現在のようなセールスフォースの事業アイデアが膨らんでいきます。そのきっかけは、1995年に創業したアマゾンでした。
べニオフは、アマゾンのウェブサイトが消費者の購買方法に革新をもたらしたことに触発され、「消費者向けウェブサイトの便益をビジネスの領域にどう持ち込むか」というアイデアを模索しはじめたのです。
当時の企業用ソフトはインストールにハードウェアやネットワークへの大きな出費がかかり、数百万ドルもの高額なCD-ROMソフトが主流で、利用は大企業に限られていました。
そこで、ベニオフが提案したのが、SaaS(Software as a Service)型のオンラインソフトでした。
顧客はインストール不要で、ソフトウェア企業がシステムを管理し、ユーザーは毎月のわずかな費用を支払うだけで、どこでも最新のソフトを利用できるという、現在は主流ですが、当時は全くなかった革新的なアイデアでした。
このサービスの構想に熱中するベニオフは、やがて「ネットベースのソフトが古いオフラインソフトを凌駕する」と確信していきます。
他の反対意見や懐疑的な声にも耳を傾けつつ、「業界のルールは無視し、常識に逆らっていいんだ」との信念を深め、自分の夢を追い始めたのです。