これからはアイデアへの投資がカギ! 企業は、文系の専門家を活かせるはず
一昨年、『アイデア資本主義』という本を出版しました。そこでも触れているんですが、今の社会では必要なモノが行き渡り、以前に比べると、ヒット商品が生まれにくくなりました。そのため、潜在的ニーズを掘っていく必要がある。
生活に必要なものが顕在化していた時代は、何を作ればいいかがわかっていましたから、資本を土地や工場に投資すれば、製品が出来上がり、売れていきました。けれど、顕在ニーズが満たされた今、何を作ったらいいかわからない。何が売れるかについてのアイデアの重要性が増し、アイデアを生み出すことに資本を投じる必要がある。これが私の提唱する「アイデア資本主義」です。
そして、アイデアさえあれば、製品が作れる。設備がなくても誰かに作ってもらうこともできる。さらには、アイデアそのものを買ってもらったり、投資してもらうこともできます。
では、どうやってアイデアを生み出すか。アイデアって、一握りの天才が生み出すものもあるけれど、人の生活を誠意を持って観察していても生まれるんです。人を深く理解すると、本当に望んでいることや、抱えている困難がわかる。そういうことを、私の会社がお手伝いできたらと思っています。
お話したとおり、文化人類学をビジネスで活かせる場はたくさんあるし、私自身が起業できています。けれど、人類学者として企業に就職しようというのは、ほぼムリなんですね。博報堂や日立製作所など、一部の企業では文化人類学者を採用していますが、そういった企業はほんの一握りです。これは他の文系も同様で、国も危機感を持っているようですが、大学院を出て修士号や博士号を取った人の価値を改めて問い直し、企業でも専門家として活躍できる道が開けて欲しいです。もちろん、大学と企業のカルチャーの違いからハレーションも起きると思いますが、文系人材の新たな視点を通じて、企業は活性化するのではないでしょうか。
私の活動を通じて、文系の学問がビジネスに役立つことを知ってもらえるようになったら、うれしいなと思っています。
大川内直子
1989年、佐賀県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。専門は文化人類学。新卒でメガバンクに就職後、出産を機に退職。アイデアファンド社を起業する。同社は、フィールドワークなどの人類学的調査手法を活かし、国内外のクライアントの事業開発・製品開発に携わる。その他、国際大学GLOCOM主任研究員、昭和池田記念財団顧問
大川内直子『アイデア資本主義』実業之日本社
取材・文/橋本 保 撮影/関口佳代