融資や借入が難しく資金繰りに悩むことの多いフリーランスやひとり社長を含む中小企業などのスモールビジネス事業者。救世主となるのが、請求書を買い取り即現金化する「ファクタリング」だ。
2019年9月にスモールビジネス事業者に特化した「ペイトナーファクタリング」を立ち上げ急成長を遂げるペイトナー社。金融サービスの門外漢であったいちスタートアップは、立ち上げからわずか4年強でどのように強い事業を作り、どんな世界を描いているのか。同事業を立ち上げから主導した同社の共同創業者で取締役COOの野呂祐介さんに話を聞いた。
金融サービスの常識を一つひとつ疑い、理想の状態を描く
資金繰りに苦しむ飲食店や運輸業。中には、闇金に頼らざるを得なくなる人もいる。スモールビジネスのキャッシュフローの課題解決こそビジネスとして取り組むべきテーマではないか──。
「ペイトナーファクタリング」は、ペイトナー創業者で代表取締役CEOの阪井優さんがこれまでの仕事でそんな経営者を目の当たりにしてきた原体験から始まっている。
サービス立ち上げから4年、累計申込件数10万件を突破し、ペイトナー社としては2023年8月にはシリーズBラウンドで総額約22億円の資金調達を実施し成長軌道に乗る。しかし、元は金融領域の知見もアセットもないスタートアップ。ゼロから金融領域に参入し短期間で事業をグロースさせていった軌跡は事業作りのヒントに溢れている。
■未回収の請求書を買い取る「ファクタリング」とは?
ファクタリングとは、未回収の請求書を買い取ってもらい現金化するサービスで、本来得られるお金を早めに受け取る手段のこと。顧客が利用しやすくすればするほど需要は高まるが、事業主側からすると同時に貸し倒れリスクも高まる。したがって「利用しやすさ」と「債権の回収率の高さ」をいかに両立させるかが事業としてのポイントとなる。
例えば、個人事業主向けファクタリングサービスで先行していた大手A社は、利用者が取引先からの入金を受け取る専用口座の開設を条件とすることで、利用しやすさを制限し、回収率を高めようとしていた。
それに対して、ペイトナー共同創業者で取締役COOの野呂祐介さんは、「ペイトナーファクタリングは出発点が違う」と同サービスについて解説する。
■リスクに踏み込む〝楽観的な読み〟こそが差異であり武器
「前職や周囲で接してきた真っ当にビジネスをしている人々の姿を見てきた感覚では、もう少し利用しやすくしてリスクを取ってもビジネスとして成立するだろう。僕らにはそんな仮説があり、請求書と身分証さえ提示すれば利用できる形で参入することにしました。
金融機関からは回収率が低いと見なされる人々でも、ちゃんと返してくれるだろうという楽観的な読みが、現在の競争力の源泉であり、僕らのビジネス構築において最もインパクトがあったところだと思います」
当時は個人事業主を対象とした貸倒率の正確な統計が存在しなかったため、審査条件の見誤りからサービス開始直後こそ貸倒率が想定以上に高くはなったものの、事業から得られたデータを踏まえて審査条件をコントロールしていくことによって、その後は安定軌道に。
仮説が実証されたわけだが、出発点の違い以外にも野呂さんが事業化の過程で重視したのは、金融サービスの常識を一つひとつ疑ってまずは理想の状態を描くことだった。そこから現実とのギャップを認識し、それを埋めるための対策を取ったという。
「例えば事業を立ち上げる前に金融機関の一般的な審査のやり方をリサーチしたところ、僕らにはそれらがとても冗長に映りました。そのことから個々の審査プロセスや目的を同じくして、もっと簡単で早くできる方法に置き換えられないか、ひとつずつ仮説を立てていくことをしました」