■[プロセス4]目的地を明確化する
私は、お笑いが大好きです。あるときから、どうにも見ているだけでは飽き足らず、ついに趣味で漫才を始めました。M−1予選に出場したこともありますし(あっさり敗退しましたが)、イベントでプロの芸人さんの前でネタを披露したこともあります(そのときはそこそこウケていました)。
さて、漫才を見ていると、新人の芸人さんが、「名前だけでも覚えて帰ってください」などと前フリを入れることがあります。これは、「この先にいろいろネタをやるけど、今日のゴールは名前を覚えてもらうことですよ」と、目的地を先に提示して誘導しているわけです。
これから何かを伝えるときには、ぜひこの目的地の提示を意識してください。
実際、ビジネスの現場でも、話が長い割には「目的地の見えない発言」が散見されます。これは、相手に最終的にたどり着いてほしい目的地を話者が見失ったときに起こります。その話者が会議を始めると、参加者を「目的地の見えない会議」に巻き込むことになります。
●「象の尻尾」の話をしない
「群盲象を評す」という寓話があります。仏教が出典のお話です。
あるとき、6人の盲人たちに象に触れたときの印象を問うたところ、各自の答えはまったく違うものだったそうです。
●象の鼻を触った者は「蛇」
●耳を触った者は「扇」
●牙を触った者は「槍」
●足を触った者は「木」
●体を触った者は「壁」
●尻尾を触った者は「ロープ」
そう、誰一人として「象」の全体像を捉えてはいなかったのです。
このとき、誰かが「あなたが触っているのは象だよ」と最初に教えたなら、自分が象のどの部分に触れているのかを判断することができたでしょう。
何かを伝えるときは、部分的に伝えるのではなく、まずは目的地を明確にして相手に提示することが大切なのです。
■[プロセス5]「コア」を探す
あなたが友人や知人と、好きなアニメについて語り合ったとします。その際、「そのアニメ、どこがいいの?」と聞くと、「えっとね、ある国にイケメンのスパイがいてね、そのスパイがどうしても任務で家族を持たなければならなくなって、まったくの他人から選んだのが暗殺者である奥さんと超能力を持つ娘で……」と、内容をイチから話し出す人がいないでしょうか。
私はこれを、「読書感想文教育の弊害」だと感じています。感想文を書くのが苦手な子は、つい原稿用紙をあらすじで埋めようとします。また、中学受験では感想文や小論文が受験科目にあるため、まずあらすじをまとめ、作者の言いたいことに自分の経験を混ぜて書くといった「型にハマった」書き方を教え込まれます。
ですが、大切なのはあらすじをまとめることではなく、物語のコアを見つけ出すことです。
物語のコアとは、その物語のなかでもっとも魅力的な部分です。
あの戦闘シーンがよかった、あの会話が泣けた、あの音楽が最高にしびれた、そんな心を強く動かされた、たったワンシーンでいいのです。
伝え方においても、「相手にいちばん伝えたい魅力的な部分」がコアになります。
あなたの伝えたいことのなかで、それはいったいなんなのか。
「伝えたいことのコア」をひとつに絞って伝えることを意識していきましょう。
■[プロセス6]ばっさり捨てる
相手に伝わりやすくするためには、余分なものを捨てることが大切です。
でも、捨てることが大事だとわかっていても、人間は「捨てること」が苦手です。
●押し入れに「すぐには使わないけれどいつか使うはずのもの」があふれている。
→「いつか使うはずのもの」を使うことは、ほぼ確実にない。
●洋服ダンスに「いつか着るはずの衣類」がぎっしり。
→もはや、自分がそのサイズは入らなくなったことすら気づかない。
●ハードディスクに「以前、仕事で使用した資料ファイル」が満載。
→99%読み返すことはない。そもそも思い出すことすらない。
「何かを失うことが怖い」というのは、人間の本能です。しかし、捨てることを恐れていると、「ただの話が長い人」になってしまいます。
何分にもわたってプロポーズを述べているドラマを見たことがあるでしょうか?
ないはずです。あれは、時間の制約からそうなっているわけではありません。
「あの、僕は君と一緒に暮らしたいんだけど、いや、そう思っているのは僕のエゴというか、べつに僕だけが幸せになりたいからじゃなくて……あ、というか、この場所でよかったんだっけ? 君のお気に入りの場所。前に好きって言っていたような……あ、そうだよね、違ったんだ、ごめんね。そういえばプロポーズってプロがするどんなポーズなんだろうね、アハハ……」と、延々と冗長なプロポーズを聞かされたら、相手はだんだんと不安になってしまうはずです。
私たちコピーライターの世界でも、「情報過多は、伝えないより悪手である」というのは常識です。あれもこれも詰め込みすぎると、何も伝わらないどころか「余裕もセンスも感じられない広告」ができあがってしまうのです。
●「伝える」と「伝わる」の違いとは?
あるとき、同じ業界の大先輩にこんなクイズを出されました。
「伝える」と「伝わる」の違いはなんでしょう?
私は必死に考え、
●伝える→伝えるという「行為」
●伝わる→伝わったという「状態」
このような違いだと答えました。
するとその先輩が、「それは間違いではないけれど、英語にしてみてごらん。よりその違いがわかるよ」と言うので、私は辞書で調べてみて「あっ」と叫びました。
●伝える→TELL
●伝わる→GET
そう、伝わるは「GET」だったんです。
つまり、伝わるということは「何かを得ている状態」と定義することができるのです。
「一方的に伝えるのではなく、相手に伝わって初めて、何かを得たり、生み出したりすることができる。言葉を使う職業を続けていくのなら、このことを忘れちゃダメだよ」という先輩からの教えは、私の大切な言葉の手帳にキープされています。
さて、ここまで「伝えること」について理解を進めてきましたが、次はまさに「相手が動いたかどうか」を見極めるプロセスに移っていきましょう。