「推し」への祈りも立派な文化だ!時代に沿った老舗の役割
――先日発売された「推し壇」。誕生のきっかけを教えてください
福田さん
「きっかけは昨年行なわれた社内公募の企画でした。新商品開発や販促イベントなど、社員が思いついたチャレンジ性の高いアイディアを集め、実現してみようといった試みです。役職、年代問わず募集をかけたところ、当時2年目の若手社員が『推し壇』の企画を提出し、役員へのプレゼンを経て見事採用!『推し壇』の開発がスタートいたしました」
――若手社員の熱意が実を結んだんですね
「企画した若手社員いわく、『推しを持つ人たちにとって“推し”の存在は生きる支えでありアイデンティティにもなり得るもの』だと。それを聞いて、『推し』に感謝と祈りを捧げる行動は当社の使命で掲げている『心の平和と生きる力』を実現させるものだと考え、今回のアイディアが採用されました」
ちなみに、企画した若手社員は学生時代から部屋に”推しのための神棚“を設置し、手を合わせていたとか。ミレニアル世代・Z世代の意見を理解し、それに応える老舗の懐も深い。
福田さん
「当社は手を合わせる生活文化を大切にし、ご供養の領域を起点とした商品を提供することでお客様の心豊かな生活を実現するお手伝いをしていますが、今回は「推し活」という新たな視点で手を合わせる文化を醸成したように思えます」
発売前から「推し壇」は反響を呼び、リリースからわずか1日でSNSでは約1万件のリポスト、160万の表示回数を記録。さらに、
「コメントでも『時代に沿ったアイディアだ』、『推しを飾るだけで元気になりそう』など前向きなお言葉や、このように新しいアイディアを採用した組織風土についてもお褒めいただけるなど想像に反して好意的な評価をいただき、大変ありがたく思っております」
コロナ後にV字回復。成約率業界屈指のワケとは?
新商品の「推し壇」は、これまでの顧客層とは全く異なる層を取り込み話題になった。
“生きている方に祈りを捧げる商品”というコンセプトもかつてない挑戦だったはず。
だが、そこに「はせがわ」の強さがあるのかもしれない。
実はコロナ禍初期の2020年、緊急事態宣言が発出された期間中は130店舗近くを閉店。
しかし、宣言解除後には業績がV字回復し、2023年3月期決算では売上高216億8百万円(前期比9.6%増)、当期純利益は11億54百万円(前期比65.5%増)という好決算の内容だった。果たして、逆境から立ち上がったその要因とは?
――2020年以降のコロナ禍はかなり大変だったのでしょうか?
「コロナ禍が本格的になった2020年3月期単体決算は前期比で5.9%減、11億3千万円の減収、当期純損失10億15百万円と厳しい結果でした。この期間は消費増税前の駆け込み需要とその後の増税不況に加え、外出自粛要請が出され本当に大変でしたね。
また、翌年度の2021年4月から5月にかけては、政府の緊急事態宣言の発出により、約1カ月間、全営業店を休業することに。解除以降は以前の状態に戻れるか不安でしたが、営業再開後、私どもの想像以上に店舗には多くのお客様がお見えになりました」
――V字回復の要因とは?
「大きな要因としては、お仏壇の販売基数の増加が挙げられます。2022年3月期のお仏壇販売基数は30,035基まで増加し、3万基を越えたのは創業90年以上の中で史上初めてのことでした。そして今年の3月期は32,604基まで伸ばしています。
販売基数増加の要因として考えられるのが、一つはお客様の買い回り行動の変化です。これまでは、購入にいたるまでにお仏壇店をいくつも回遊されるところを、コロナの影響で最初に訪れたお仏壇店で購入する方が増えたからだと思います」
「安心・安全で後悔のないように購入できるお仏壇店はどこかと考えたときに「はせがわ」をイメージしていただける。先人たちが真剣に積み上げてきた信用や、当社の知名度がここで活かされたのかと思います」
さらに「はせがわ」は他社と比べ、お仏壇の成約率が群を抜いているという。
「2023年3月期のお仏壇の成約率は70.8%でした。社長の新貝がよく言うのは『我々の仕事は大切な方をご供養したいと来店されるお客様と向き合う“菩薩業”である』と。単なる御用受けにだけは決してならず、従業員たちはその場で最上と思うおもてなしを実践する。それがお客様の感動や従業員自らの誇りとやる気に繋がると信念をもって取り組んでいます」