「ストリートスイーパー」という道路清掃作業車をご存じだろうか。左右の側に配された円形のブラシが回転し、路肩のチリやゴミを掃いて車両の真ん中に寄せ、後部で回転する主ブラシがそれらをかき上げ、コンベアを経由しホッパと呼ばれる後部のゴミ箱に収集する。高速道路、国道、市町村道路で主に深夜、清掃作業に従事し、道路の美観と安全性を担っている黄色い車両だ。
今、ストリートスイーパー(以下・スイーパー)のEV化、そしてEVロボット化の実証実験が行われている。国産初のEV化した「EVタウンスイーパー」は、今年度末に発売予定だ。少子高齢化の中、厳しい職種の道路清掃員のなり手は減少するだろう。インフラを担うきつい仕事だからこそ、率先して自動化が必要と、誰もがうなずくところだ。
愛知県清須市に本社を置く豊和工業株式会社(資本金約90億円、就業員約700名)。工作機械、油圧機器、防音サッシ、火器では防衛装備品として小銃を自衛隊に納入する、日本唯一の小銃メーカーといってもいい。この会社が製造するスイーパーの国内シェアは実に約¥90%。路面清掃車、産業用清掃機を中心にこの会社が製造する清掃機は21種類に及ぶ。
アフターサービスこそ“兵たん”
道路清掃の要となるスイーパーのEV化、EVロボット化の旗を振るのは、社長の塚本高広(69)である。いち早く斬新な開発に乗り出す塚本高広が、社長の椅子に座った背景をざっくり振り返ると――
大阪育ちの塚本高広は大学を卒業後、78年に豊和工業に入社。配属は車両部(現・特装車両事業部)、73年に名神高速道路に道路清掃車第一号が納入されて間がなく、社内でも所帯の小さな事業部だった。道路公団、土木事務所、県や市の道路清掃の担当部署、清掃を請け負う民間業者、それら得意先を営業で回った。
「この部品の調子が悪いんだ」
道路清掃車はハードな仕事だ。パーツの消耗も目立った。
「すみません、今在庫の部品がないんです」
「在庫がないって清掃車が止まってしまうよ」
スイーパーが動かないと、道路の清掃や安全等を担うインフラが止まってしまう。 これはいかんぞ……
必ず部品の在庫を持つ、顧客の清掃車への定期点検は欠かさない。そのための人員をそろえる。それが顧客の信用を得ることにつながり、「よしゃ、次も豊和で行くぞ」という声になっていく。つまりアフターサービスの充実こそが兵たんだ。営業にとって最大の後方支援になる。塚本はこの“方程式”で、特殊車両部のシェアを飛躍させる。責任ある立場に昇進すると、会社の各事業所で、この“方程式”の浸透を図った。
自分たちでEV化の技術を
そして2018年、塚本高広が社長に就任してほどなく行われた開発会議でのことだった。欧米で広がるEVシフト化について、「世界中の脱炭素の流れは今後、加速することは明らかだ」と話を切り出す。「でも社長、日本のお客さんが電動化について、かなり慎重です」特装車両部の幹部スタッフが応える。
「国内ではほとんど見かけないが、海外では電気自動車は珍しくない。中国ではすでに大型の電動トラックが走っている。近い将来、EVのスイーパーが出てきてもおかしくない状況だ。EVスイーパーが中国から輸入され、これが環境にいいとなったら、うちがほぼ独占するスイーパーの市場が崩れかねない」
「でも、日本のメーカーがEVトラックを市販するなんて、うわさにも聞こえてきません」
スイーパーは市販のトラックをベースに、清掃に関する独自の技術を搭載して製品にする。
「日本のメーカーが5~10年先にEVトラックを出したとしても、それからスイーパーの開発をしていたのでは、海外の競合に遅れを取る。自動車メーカーがやらないのなら、自分たちでEV化の技術を持とうじゃないか」
社員を前に、そう宣言した背景を塚本は語る。
「我々はモノづくりでメシを食っている会社ですから。メーカーの命は技術力と製品力です。それへのチャレンジに二の足を踏むくらいだったら、メーカーをやめます。特にうちは公共の仕事を担う車両を生産していますから、社会から脱炭素化が強く求められている。うちにとって、EV作業車を世の中に出すのは必然です」
二つの必然
塚本はEV化の旗を振っただけではなかった。
「少子高齢化で、これからは道路の清掃をやる人はますます、少なくなっていくだろう。将来は自動化するしかない」
彼は同時に、スイーパーの自動運転化も宣言したのである。EV化と、さらにロボットスイーパー開発の提唱である。特装車両事業部次長の小笠原安千佳は言う。
「これからますます、15~64歳の就業年齢の人口が減るのは現実ですので、EV化の技術が使えるようになれば当然、次は自動運転だと、頭ではわかるのですが……」
塚本は言う。
「単なる自動化ではない。日本人の仕事のやり方には、理屈に基づいたノウハウがあります。人がやるのと同じように、理にかなった仕事ができる自動運転の作業車を目指す。熟練の腕の自動化は、これからの時代の必然です」
将来を見据えた時、EV化と自動運転化は必然だとはわかるが、さてどうするか。
大容量のバッテリーは使い物にならない
EVも自動化も、これまでほとんど手つかずの分野である。
特装車両事業部の設計課の中にEVとEVロボの開発プロジェクトチームが立ち上がり、小笠原安千佳や設計課係長の安藤丈たちの試行錯誤が続いた。
「EVの要はバッテリーとモーターです」
「せめて半日は動かせるバッテリーがほしいな」
「これまでスイーパーは走行も清掃作業も、エンジンの動力でまかなってきました」
「よし、走行と清掃作業をまかなえる大容量のバッテリーをメーカーに特注しよう」
ところが出来上がったバッテリーは、通常より10倍近くコストがかさみ、使い物にならなかった。暗中模索は続くが、ブレイクスルーの芽は育っていた。塚本は言う。
「各事業部同士に高い壁があるのは、会社にとって良くない。壁を壊すために私がまずやったのは、各事業部の管理職を異動させて、事業部同士の風通しを良くしたんです」
早速、機械事業部から電気関係のエキスパートが2名、開発チームに招聘された。
年末に発売予定の国産初のEVスイーパー「EVタウンスイーパー」と、自動運転の試作車「EVロボスイーパー」の開発の試行錯誤は、明日配信する後編で詳しく語る。
取材・文/根岸康雄