近年は、世界情勢や物価上昇、環境破壊などから、供給が困難になっている食品が目立ってきている。そんな食品の持続可能性を追求する観点から、フードテック技術が進化し、新たな食品が生まれている。今回は、注目のフードテックベンチャーの取り組みを紹介する。
培養フォアグラ
細胞培養スタートアップのインテグリカルチャー株式会社が培養フォアグラの開発を進めている。
同社は動物由来細胞から食品や原料などを作る「細胞農業」で持続可能な世界を目指しており、これまでも培養肉やコスメ素材も手がけてきた。
例えば独自開発の化粧品原料「CELLAMENT(セラメント)」は、タマゴ(鶏卵)由来の細胞培養エキスから作られている。研究を進めていく中で、タマゴの胎盤様組織にある3種類の細胞の有用性を発見し、95%がヒトの羊水や胎児血液と同等の組成をもつことから、コスメに利用すれば次世代のエイジングケア美容成分になり得るのではと考えた。
ユーグレナ社と共鳴し、セラメントを配合した美容液「CONC セラメント エッセンス」を2022年2月に発売。ユーグレナ社独自の化粧品原料・ユーグレナエキスを合わせることでこれまでにない美容液が世に送り出された。
そんな同社が現在、研究を進めているのが培養フォアグラだ。取締役CTOの川島一公氏は次のように話す。
「培養フォアグラとは、フォアグラの元となるアヒルの肝臓由来の細胞を、培養技術を用いて育てた後に収穫したものです。培養技術とは、育てたい細胞の周りの環境を、身体の中と同じ状態に整えてあげることです。具体的には栄養成分(アミノ酸、ビタミン等)と血液成分(タンパク質等)、物理的成分(温度等)の3つを整えます。
細胞は体の外にいると感じると死んでしまう性質を持っていることから、いかに細胞とって心地よい環境を作り出すかが技術開発の鍵となっています」
培養フォアグラの開発に至った背景として、一般的なフォアグラの生産や提供を抑制する動きが国内外で見られることが一つにあるという。
「フォアグラの生産の際、アヒルやガチョウの肝臓に脂肪を蓄積させるために過剰な給餌を行うことがクローズアップされており、これらの飼育方式がエシカルではないと感じる人が増えています。当社としてはエシカルな嗜好の方に対して、培養技術によって育てた細胞を新しい選択肢に入れていただけるような未来を実現することを目指しています」
2023年の春には、アヒル肝臓由来細胞を用いた食品に対する官能評価会を実施。ホテル・レストラン業のPlan・Do・See社と共にメニュー開発に取り組んだ。シェフからのフィードバックを活かすための培養技術の開発を進めているという。
近い将来、新たに生み出した培養フォアグラを用いて様々な企業やシェフとコラボレーションを展望している。