「つながりにくい」に見え隠れするNTT再編の影響
この半年近く、「つながりにくい」という声が増えてきたことに対し、NTTドコモは4月、8月、10月と、通信品質改善のために、様々な対策を行なってきたことを明らかにした。しかし、地域によっては、これから対策が行なわれるところもあり、NTTドコモのモバイルネットワークがかつてのように「いつでもつながる」を実現するには、もう少し時間がかかりそうだ。
NTTドコモのモバイルネットワークで「つながりにくい」という状況を生み出した背景には、同社が説明したように、アフターコロナの人流やユーザーのデータ通信量の増加などを読み間違えた部分も関係しているだろうが、実はもっとほかの部分にも理由があるのではないかと推測できる。
たとえば、5Gのエリア展開は5G本来の仕様にこだわってしまったため、転用5Gエリアを展開できず、最近になって、慌てて対応している。アンテナ技術の「MIMO」も他社が早い段階から導入し、一定の効果を上げていたのにもかかわらず、結局、導入が今の時期まで遅れてしまった。ある業界関係者が「5Gのネットワーク運用は予想よりも難しい」と話していたが、KDDIやソフトバンクが海外の基地局ベンダーなどから各国の5G導入状況などの情報を得ていたことで、こうした難しさをある程度、回避することができていたのに対し、NTTドコモは国内の関係各社が持つ情報に頼っていたNTTドコモは、5Gネットワーク構築と運用に十分な知見を得られていなかったという指摘もある。
また、ソフトバンクは前述のように、子会社のAgoopのアプリによって得られたユーザーの利用状況などを自社のネットワークの品質向上にも積極的に活用しており、他社も自社アプリなどで同様の情報を得ているとされている。
これに対し、NTTドコモはかつてのケータイ時代から、それぞれのユーザーに合わせたコンテンツを提供し、スマートフォン向けの「my daiz(マイデイズ)」でも位置情報に基づいた情報提供やコンテンツ配信を行なってきたが、それぞれのサービスやアプリではユーザーが利用する時の通信品質や電波状態などの情報は取得しておらず、ネットワークの品質向上に活かそうという動きもなかった。10月の説明会では[ドコモスピードテスト]アプリの調査データも活用するとしたが、同アプリの利用目的を考えると、十分な情報が得られるとは考えにくい。SNSの投稿をベースにした情報収集も位置情報などが把握しにくく、他社並みに対策に活かせるかどうかは未知数だ。
こうしたユーザーが利用するアプリから、ネットワークの利用状況や通信品質などの情報を得るなど、スマートフォンの特徴を活かした柔軟な発想が生まれてこない背景には、NTTが2020年にNTTドコモを完全子会社化したことで、社内の体制が大きく変わり、「社内の『風通し』が悪くなっているのではないか」という声も聞かれる。従来であれば、社内や関係各社で発案されたアイデアがサービス提供などに結び付くケースはあったが、ここ数年は異動や組織変更で体制が変わってしまい、うまく現場の声が拾えていないのではないかとも言われている。
年内の300億円の先行投資をはじめ、設備増強やチューニングなどで、今後、NTTドコモの「つながりにくい」は改善する方向に向かいそうだが、NTTグループ再編という大きな動きに翻弄され、社内の「つながりにくさ」が影響する状況を改善しなければ、同じようなトラブルが起きたり、今以上にユーザーの不満を生むことになるかもしれない。我々ユーザーとしてもしっかりNTTドコモの動向をチェックしながら、見極めるようにしたい。
取材・文/法林岳之