7月中には「都内4エリア」でチューニング完了
続いて、NTTドコモは「都内4エリア(新宿・渋谷・池袋・新橋)通信品質改善状況と今後の取り組みについて」というニュースリリースを、8月に発表。4月に示していた都内4エリアでのネットワークのチューニングが完了し、東京・渋谷のハチ公周辺ではスループットが最大10倍まで向上したことを明らかにした。
この期間に実施されたチューニングの内容について、NTTドコモは基地局のアンテナの「角度調整」「出力調整」「指向調整」を行ない、複数の周波数帯の混雑に応じたユーザーの均等分散に加え、4Gと5Gの設備増設も実施したという。基地局のアンテナのチューニングについては、遠隔制御だけでなく、現地での電波状況も確認しながらの調整も行なわれた。さらに、これらのチューニングを都内だけでなく、全国各地に展開し、全国の通信品質向上を推進する方針も示した。
2023年8月の説明会では、基地局のアンテナ角度の調整(チルト変更)や出力調整、指向性の調整などによって、カバーエリアの微調整にも取り組んでいることが明らかにされた
既存の基地局に追加する形で、4G/5Gの設備を増設し、エリアのチューニングを進めているという
ただ、対策として実施された基地局などの調整については、やや疑問が残った。というのも一般的に携帯電話のネットワークは、ユーザーの利用状況を日常的にチェックしながら、必要に応じて、設備の調整や増設などを行なうものだ。大規模な再開発が急ピッチで進められている東京・渋谷駅周辺などは、人流も多く、影響が大きいため、調整が難しいという見方もできるが、再開発の工程は建設を担当する企業などに情報を求めることができるため、ある程度、計画的に調整ができるはずだ。つまり、NTTドコモが取り組んだとする『チューニング』は携帯電話会社として、ごく当たり前の取り組みであるはずで、ユーザーから「つながらない」という指摘が挙がってきた状況に対して、改めて取り組んだり、取り組みをアピールするような特別なものではない。もちろん、NTTドコモが通常通りの取り組みを従来よりも一段と強化したという受け取り方もできるが、メディア関係者の間では同社の対策についての説明に、今ひとつ納得できない部分もあった。
実は『なんちゃって5G』が正解だった?
そんな中、9月に入ると、「ソフトバンクが考えるモバイルネットワーク品質のあり方に関する説明会」が催され、そこで説明された内容によって、NTTドコモの「つながりにくいネットワーク」の正体を知ることができた。
その内容を説明する前に、国内各社のモバイルネットワークの動向について、簡単におさらいをしておきたい。現在、国内ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社が携帯電話サービスを提供しているが、各社が現在、積極的にサービスの強化を図っているのが2020年にスタートした「5G」(5th Generation Mobile System)だ。高速大容量、低遅延、同時多接続などの特徴を持つ5Gだが、各社に5G用として割り当てられた周波数帯域はSub6と呼ばれる「3.7GHz」「4.5GHz」、ミリ波と呼ばれる「28GHz」で、いずれも4G LTEに比べ、高い周波数帯域となっている。一般的に周波数は高い方が直進性は強く、建物などにも反射するうえ、電波が飛ぶ範囲も限られており、ひとつの基地局でカバーできる範囲も狭い。その代わり、4G LTEなどに割り当てられている周波数帯域に比べ、バンド幅(道路の幅に相当する)が広いため、より高速な通信が可能になるなどの特徴がある。
各社の5Gサービスは、2020年3月から順次、提供を開始しているが、NTTドコモはまず、5G用に割り当てられた周波数帯域でエリアを構成し、これを前述の通り、「瞬速5G」と呼んでいる。これに対し、KDDIとソフトバンクは5G用に割り当てられた周波数帯域に加え、既存の4G LTEで利用している周波数帯域に5Gの信号を混ぜ合わせる「DSS(Dynamic Spectrum Sharing)」という技術を使い、ネットワークを構築していた。4G LTEの周波数帯域に5Gの信号を混ぜ合わせる方法は「転用」とも呼ばれ、5G本来のパフォーマンスが得られないものの、既存の4G LTEのネットワークを活かすことができるため、いち早く5Gのエリアを拡大できるというメリットがある。一部の業界関係者からは、「auとソフトバンクの5Gは『なんちゃって5G』だ」と揶揄されたが、実はこれが後々、KDDIとソフトバンクの5Gネットワーク展開のアドバンテージにつながり、NTTドコモの「つながりにくい」が生まれる要因にもなってしまった。