原因はネットワークだけじゃない
石川氏:結局、抜本的な対策が打てていないので、この先、いつ改善するのかが見えないというか。
法林氏:アンカーバンドの面展開をもうちょっと増やしましょうっていうのは、そんなに簡単な話ではない。基地局の場所を増やさなきゃいけないから、相当大変だと思うんですよ。Massive MIMOは、ソフトバンクの関和さんの話し方のニュアンスだと、プラスアルファぐらいの効果だと思う。
石川氏:そうですね。繁華街では効果があるみたいですが。
法林氏:場所が限定されるよね。そう考えると、やっぱりアンカーバンドを面展開することが大事だと思う。
房野氏:アンカーバンドを面展開するのには時間がかかりますか。
法林氏:当然、かかります。すごく大変だと思います。
石野氏:ソフトバンクは、アンカーバンドにデータが集中しすぎて、5Gにつながりにくくなることがあると言うんですけど、ドコモは、そのバランスを取る以前の話だと思うんですよね。
房野氏:5Gの実証経験が少ないってことですか?
石野氏:たぶんエリア構築をちょっと甘く見ていたというか。「4Gがあるんだから5Gはピンポイントでいいじゃん」みたいな意識がちょっと透けて見えるので、それが良くなかったのかな。ピンポイントでエリアを作ってきたら、それなりに問題が起きるってことなのかなと思いました。
石川氏:あと、ソフトバンクとKDDIはTD-LTE(通信の上り下りを同じ周波数帯でするかわりに時間で分割すること)をやっていたのも大きいかなと思う。AXGP(PHSで利用されていたXGPという通信規格を改良した規格)とかWiMAXとか、あの辺の経験値が生きている。ドコモは3.5GHz帯でしかやっていなかったので、なかなか活かせなかった。
法林氏:5Gのサービスが始まった3年前にも、ドコモは5Gが遅いって言われたタイミングがあった。「がんばって4Gを使います」って答えていたけれど、その時から結局変わっていないじゃんって話。関和さんの話の中にもあったけど、うまく4GのLTEを掴んで、アンカーバンドに入ってきて、データをうまく5Gに上げて、5G側で大量に通信してくれるから、アンカーバンドが混雑するのも一瞬で済む。みんな5G端末を持っているので大丈夫だと。そう考えると、ドコモは安い5G端末の用意が足りなかったかなと。
KDDIの人は、3Gの巻き取りがあったので、Xiaomiとかから5Gの安い端末のラインアップを揃えていた。だから5Gが普及していますよね、という話をしていた。ドコモは3Gの巻き取りはまだ先だけど、安い5G端末をユーザーに用意できていないから5G率が低い。だから通信データが4Gから5Gへとなかなか移行しない。
石川氏:ドコモが2万円程度で安い端末を揃えたことがあったけど、それは4G端末でした。あの時にがんばって中国メーカーの5G端末を揃えていたら、5Gに流れたかもしれないけど、それができないから、結果として安い4G端末しかなかった。
石野氏:「arrows We」は5G対応でしたけど、ばら撒いたらFCNTが民事再生ということに……。結局レノボに救済されましたが。
房野氏:いろんな要因がありますね。
石川氏:端末の割引政策とキャリアのネットワーク品質は、つながってないようで実はつながっている。端末割引を増やして5G端末を普及させれば、こんなことにならなかったし、「2万円」があったがゆえに、NTTドコモとしては苦労している。
法林氏:じゃあ、ドコモがつながらない理由は有識者会議と総務省にあるわけですね(笑)
石川氏:総務省は「端末とネットワークは別」と言っているけど、そうじゃないと。結局はネットワークも進化させないといけないし、端末も進化させなきゃいけない。そこをぶった切った政策をやったから、こんなことになっているんですよ。
石野氏:でも、KDDIとソフトバンクはできているんだから……
石川氏:KDDIとソフトバンクは何が違うかというと、グローバルベンダーと付き合っていること。基地局はエリクソンとかと付き合っているし、端末は中国メーカーと付き合っている。結果として最新のテクノロジーや先を見たテクノロジー、グローバルスタンダードのテクノロジーが導入されている。一方、ドコモはやっぱり自分たちで全部やらなきゃいけないので、結果として遅れてしまった。
房野氏:やっぱり完全民営化ですか(笑)
石川氏:そうかも。
石野氏:5G端末を普及させなければいけないタイミングで、中国メーカー端末を排除しているのが、なんかちょっと。しょうがない部分はありますけど。
法林氏:難しいね。
石野氏:端末は別に中国メーカーでもいいじゃないですか。かつてはファーウェイ端末だって入れていたわけだし。
法林氏:やっぱりドコモの完全子会社化がすべてのトリガーなんですよ。あれが大失敗の始まり。
房野氏:そこまで戻りますか。
法林氏:そう思うよ。
……続く!
なぜドコモのネットワークはつながらなくなったのか?「つながりにくい」に見え隠れするNTT再編の影響
いつでもどこでも便利に使えるスマートフォン。携帯電話会社によって、利用できるエリアに違いはあるが、NTTドコモはエリアや通信品質などで常に高い評価を受けてきた...
次回は、新型Google Pixelについて会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/房野麻子