気になる価格、発売日。実は……
ここまでの話を聞き「それで値段はいくらなのか?」「いつ発売だ?」と気になった方も多いだろう。実は残念なことに「nomiigo」は業務用ビールサーバーなのだ。家庭用としての販売は予定していない。
では、なぜ飲食店ではすでに広く普及している樽生サーバーがあるにもかかわらず、新たなビールサーバーが必要なのだろうか。その答えは樽生サーバーの仕様にある。
樽生サーバーの樽の大きさは主に10リットル、15リットル、20リットルでのラインナップ展開となっている。樽は一度開栓すると品質が長期間は維持できず、3日程度で消費することが推奨されている。
飲食店で多く提供される「生ビール(中)」が350mlと仮定すると、10リットルでも約30杯の注文が必要になる。居酒屋などであれば不都合はないだろうが、例えばカウンターしかないラーメンやおしゃれなカフェ&バーでは少しハードルが高いこともあるだろう。そもそも樽生サーバーを置くスペースが十分に確保できない店も多い。
今回、「nomiigo」はそうした「これまで樽生サーバーを導入できなかった店舗」をターゲットにしている。店舗側としては美味しいビールを提供できることで新たな顧客開拓、顧客満足度の向上などが期待できるところだろう。23年度中に都内飲食店を中心に100台のテスト展開を開始し、中期的な目標としては1万台を目指しているという。
なぜ家庭用ではないのか
「nomiigo」のプロジェクトが始まったのは2021年6月。当時はコロナ禍の真っ只中であった。開発にも携わったサントリーのビールカンパニーマーケティング本部イノベーション部の伊藤優樹氏は「nomiigo」のメディア向け説明会で次ように語っていた。
「(開発)当初の微論としては、やはりコロナ禍で飲食店の客数が非常に減ってきていた。しかしながら最終的にはしっかりと回復はすると思っていた。コロナ禍を経て、飲食店も若干お店を小型化するような動きも少し見えていた。そのような背景から、適用量で提供できるサーバーは、この先必要になると思い、予想。想定しながら開発に着手した」
サントリーのビールカンパニーマーケティング本部イノベーション部の伊藤優樹氏
当初から業務用ビールサーバーとして開発していたとも受け止められる説明だが、本当にそれが全てだろうか。当時の「おうち時間」トレンドを考えれば、当初は「自宅でもお店のビールが飲めるビールサーバー」を視野に入れて開発していたと考えるのが自然ではないか。
そうであるならば、なぜ「nomiigo」は家庭用としての販売に至らなかっただろう。
タイミングやコストといったと要因が考えられるが、実物を見た感想としては「サイズ」も大きな要因だったのではないかと推察する。
「nomiigo」のサイズは、幅25.5cm、奥行き53.5cm、高さ56.5cm。重さが31kgである。一般的なファミリー用のオーブンレンジ(30L)の大きさが約幅50cm、奥行き40cm、高さ40cm。重さは20kg前後が多いことを見るに、「nomiigo」のサイズ感がイメージできるだろう。飲食店ならともかく、自宅に設置できる家庭はかなり限られる大きさだ。このサイズで家庭用として販売するには難しいだろう。
画期的なビールサーバーなだけに「業務用」にがっかりした人も多いはず。「noiigo」の成功が、「家庭用」に繋がることを期待したい。
取材・文/峯亮佑