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時代の転換期に必要なのは「余白」、三菱地所が有楽町エリアで体現するアジャイルな街づくり

2023.10.18

大丸有の「個」を強くする右脳的な仕掛け

周辺エリアの開発まで含めて10~20年を要する長期のプロジェクトであることも、アジャイルを選んだ背景にはある。「ビルが完成するまでの間にも、できる街づくりがあるはずです」(山元さん)。また、一年先すら見通せないVUCAの時代に、変更の効かない街づくり計画は、かえってリスキーだ。

大丸有エリアにはまちづくりの指針となるガイドラインが存在する。エリア内の地権者や行政が公民連携で策定する「大丸有まちづくりガイドライン」だ。「進化するガイドラインとして、社会情勢の変化に応じて改訂が重ねられているのですが、私たちとしては、自分たちが将来開発する建物のためにも、その開発の指針となるべきガイドラインで議論される未来のためにも、短期的なチャレンジを足元で積み重ねる必要があったのです」と山元さん。

実際にプロジェクトを走らせながら有楽町の将来像を少しずつチューニングしていく。そうした過程そのものもまた、有楽町の街づくりだ。

「アジャイルな街づくり」を先導するプロジェクトとして始まっているのは、「有楽町「Micro STARs Dev.」』(マイクロスターズディベロップメント。以下、MSD)だ。「街の輝きは人がつくる」をコンセプトに、有楽町から新しいスターとなるような人やモノ、サービスを生み出すことを目指す。

MSDの拠点として置かれたSAAIとmicro。ここで育てたアイデアを大丸有で試行していく

MSDからは、人が集まるリアルな場として、先述の新有楽町ビル10Fに入居する「SAAI」、有楽町ビル1Fにある「micro」が誕生した。さらに2022年2月には、アーティストとの交流から街づくりの新たな可能性を開拓する試みとして「YAU」がスタート。アーティストの創作拠点となる『YAU STUDIO』を有楽町ビル10Fに設置し、2023年1月よりはキュレーターやアートマネージャーの入居するコワーキングスペースをオープンしている。MSDとは別個のプロジェクトだが、「人」起点の街づくりであり、人が集まるリアルな場を重視する点は共通する。

「YAUは、大丸有の『個』を強くするには左脳的なロジックの積み上げだけではなく、アーティストのような右脳的な発想力が必要だという議論から生まれました。しかしメソッドだけを持ち込んでも根づかない。そこには、アーティストという『人』と、人が活躍する『土壌』が必要なんです。その土壌づくりに、リアルな場は欠かせません』(山元さん)

街の用途を曖昧に「ミラノサローネ」「SXSW」型を目指す

またアジャイルで自律分散型の街づくりを実現するには、リアルな場に集まった人同士の交流を促す仕掛けも欠かせない。そうした目線で有楽町をみると至る所に意図が感じられる。

分かりやすい例がmicroの空間設計だ。もとは紳士服店だった物件であり、外から中が見えず、街との交流が生まれにくかった。そこでmicroを立ち上げるにあたり外壁を抜き、街に開かれた「縁側」を設置。ウチとソトの境界をあいまいにすることで偶然の出会いを生み、街全体をオープンイノベーションの場に変えるという意図がある。店内は見わたしの良い大空間だ。

「友達とご飯を食べに来た人が、たまたま店内で開催されていたトークイベントに興味を持つ、みたいな偶発性がある場所にしたいと思って作りました。ですが、ただ混ぜこぜにするだけだと、当たり前ですが誰にとっても居心地がよくないこともやってみてわかりました(笑)。空間と時間の適度な配分と、それを叶える運営ノウハウがポイントですね」

22年1月にオープンした「SLIT PARK」も境界を曖昧にする試みのひとつだ。JR有楽町駅側の新国際ビルと新日石ビルの間の路地をリニューアルし、トークセッションなどの会場や飲食に使える多目的空間とした。wifiや電源を完備しており、ワークスペースにもなる。

(写真左から)SLIT PARKの一角とmicroの縁側の様子

用途をこれと定めずむしろ曖昧に多目的にしていく街の使い方は、「ミラノサローネ」や「サウス・バイ・サウスウエスト」(SXSW)などの複合フェスを参考にした部分もあるという。例えば、音楽・映画・テクノロジーの祭典であるSXSWにおいては、開催期間中、普通の商店がSXSWのサテライト会場に変わる。

「街全体でその期間イベントをやるという大義があるから成立している例ですね。有楽町のmicroは、まさにその実験場。例えば周辺エリア一体で開催された東京国際映画祭の期間中は、microを映画関係者ラウンジとして専用で使ってもらいました。『普通そんなことできない、どうして認められたんですか』とよく言われます。確かに普通の飲食店だったら経営的な観点で、2週間だけ看板が変わるような運営は難しいでしょう。microが街づくりの中で必要な一機能として存在しているからこそ、チャレンジしたことです。」

「有楽町、面白いね」と言ってくれる人を増やすために

先述のとおり、有楽町ビルと新有楽町ビルは閉館を迎えるため、SAAIとYAUは別のビルに移転し活動を続けるが、明確なゴールを定めているわけではない。これまでの活動を振り返り、コミュニティの作り方などの知見を将来の新ビルの計画にフィードバックすることもタスクの一つだ。その間も、有楽町のそこかしこでアジャイルな街づくりの試みは続く。

「今も、私自身が把握しきれないくらい沢山のことが日々起きています。YAUだって、こんなに大きな話に発展するとは思っていませんでした。みんなが街づくりを『自分ごと』化し、自分を主語に街づくりを語ってくれていことにも驚く。そのこと自体がこの街づくりにおいて大きな成果だと捉えていますし、これからの展開が私自身楽しみで仕方ありません。『有楽町、面白いね』『有楽町で、何かしてみたいな』と思って実際にこの街に活動しにきてくれる人をもっともっと増やすことが一番の願いです」

山元夕梨恵(やまもと・ゆりえ)
三菱地所株式会社 プロジェクト開発部有楽町街づくり推進室兼エリアマネジメント企画部統括。大手町・丸の内・有楽町エリアにおける街づくりを担当し、エリア内のオフィスビル開発や有楽町エリアの将来構想策定・ブランディング企画実行に携わる。主な開発企画案件として、「大手町パークビル」、「Micro STARs Dev.」、「有楽町micro FOOD & IDEA MARKET」、「有楽町SAAI Wonder Working Community」、「有楽町アートアーバニズムプログラムYAU」ほか。

取材・文/稲本 圭

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