IT業界のM&Aの背景にある経営課題とは?
M&Aの理由としての経営課題は企業によってさまざまだ。近年のIT業界ではどのような課題が多いのか。
「多くの経営者が抱えている経営課題は、『エンジニア人材の定着と採用』です。M&Aキャピタルパートナーズが行ったアンケートでは、経営者の約半数がすでに人材不足に課題を持っておりました。また、M&Aを検討している売手企業の経営者がM&Aを通じて買手企業に期待することの一番多かった意見としては、『人材の定着と採用』です。
現在、M&Aを検討している売手企業は、ほとんどが売上利益ともに順調な会社で、社長の年齢も若く、事業意欲が旺盛な方も多いのが実情です。
一方で『2025年の崖(※)』で言われているように、今後ますます、IT人材の採用がむずかしくなるのは明らかであり、また従業員が会社に求めるものも高くなると想定される中で、より良いパートナーがいるのであればM&Aも選択肢の一つだと考えられるようになっています」
※経済産業省の「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」により提唱された言葉。数ある課題のうち、「IT人材不足」も一つの問題として取り上げられている。
他の業界のM&Aとは異なる点
IT業界のM&Aは、他業界とは異なる特徴があるという。
「国内の新規上場を行った企業の約4割がIT業種といわれているほど、IT業界は成長ポテンシャルが高い市場環境です。そして、その企業のほとんどが売上数億~数十億という売上規模で上場をしています。多くの企業が上場後の戦略としてM&Aを掲げていますが、M&Aで売手企業になる会社と、上場して買手企業となる会社の規模はそこまで違いがありません。基本的に買手企業のほうが企業規模が大きい他の業界のM&Aのトレンドとは一線を画しています」
今後のIT業界のM&Aの動向
今後、IT業界のM&Aはどうなっていくだろうか。
「コロナ禍以降、人々の生活は大きく変化し、IT業界を取り巻く環境は急速に変化しました。さらに、AIなどデジタルテクノロジーが急速に進化する中、『2025年の崖』として企業のデジタル化への対応が国から提言されるなど、IT関連の需要は高まるばかりです。また、ITを顧客へのサービス向上など新たな価値を創造する手段に位置付けるとともに、DXへ向けて組織を横断的な形に改革するケースが増加しています。
成長のための次の一手として、M&Aという経営戦略を選択肢に入れている経営者が非常に増えており、弊社への相談件数も増加しています。今後もその傾向は続いていくと考えられます。さらに人材不足などの課題解決のためのM&Aだけでなく、新たな価値が創造され、産業を活性化させるようなM&Aが増えていくと考えています」
M&Aは、企業の経営戦略の一つであるが、IT業界では特に生き残りをかけた取り組みとなっているようだ。
【取材協力】
山﨑研氏
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 企業情報部 部長
大和証券会社にて上場・未上場企業オーナーの資産運用および IPO支援・M&A支援に従事。2011年当社に参画後、累計50件超のM&A支援実績を有する。IT業界M&Aにおいて業界トップクラスの成約実績を残し、2023年6月に立ち上げたM&AキャピタルパートナーズIT業界プロフェッショナルチームのリーダーを務める。IT業界を含めた様々な業界で大型のM&Aを多く支援し、現在M&A業界における現役最高プレイヤーの一人。
取材・文/石原亜香利