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ビルの一角で人知れずスタート!?三菱地所がアート×ビジネスでめざす実験的プロジェクトの中身

2023.09.27

実験が許される”隙間”を見出せる街

YAUの運営にあたるアートマネージャーの金森千紘さん。写真はYAUの受付。

それにしても、なぜ街づくりでアート×ビジネスなのか。中森さんはYAU立ち上げの経緯を次のように説明する。

「有楽町の街づくりを考えるにあたり、大丸有が今後も国際競争力を担保しつづけるには何が必要なのかと、有識者と議論を重ねてきました。そのなかで仮説として定めたのが「アートアーバニズム」でした。この街に足りないのは、クリエイティビティや多様性ではないか。そしてアーティストという『人』が、街にクリエイティビティと多様性をもたらすのではないか、と」

街づくりの起点を「人」に置いている点では、同じく三菱地所が手掛ける有楽町の再構築プロジェクト「有楽町『Micro STARs Dev.』」(マイクロスターズディベロップメント。以下、MSD)とも共通する。有楽町といえば商業、歴史、文化の結節点であり、多くの人が行き交う街。

有楽町から新しいスターを生み出そうと、MSDは「街の輝きは人がつくる」というコンセプトを掲げ、「SAAI」(※第一弾記事リンク)や「micro」などの施設を誕生させたのも、そこに必然性がある。MSDとYAU。それぞれ別個のプロジェクトだが、有楽町という街の特性ゆえ、同じ方向を向いたとも言える。

「アートアーバニズムという新しい取り組みを大丸有全域に広げるには、有楽町を”入り口”にするべきだと考えました。アーティストにとっても有楽町という街の個性は魅力的。すでにエスタブリッシュされた感のある大手町や丸の内に比べ、有楽町はどこか『隙のある』街。

加えて、MSDによって街が大きく変わろうとしているタイミングでもあります。普通の人なら気づかないようなところにも、アーティストなら、実験が許される隙間を見出せると捉えています」(中森さん)

「面白いオフィス空間がある」という口コミ

YAU入口付近に貼られた、YAU企画運営メンバー・コワーキング利用者の方の写真。現在で50名超がこのプロジェクトに携わっている

YAUはこれまでその全貌を対外的に公開したり、2023年1月からコワーキングスペースをオープン。その後も「面白い空間がある」と口コミで広がり、アーティスト、大丸有のビジネスパーソン、キュレーター・アートディレクター・コミュニティマネージャーを中心に利用者は続々と増加し、定期開催しているSALONイベントに参加する常連も多くなっている。

YAUの稽古場を利用するアーティストを公募した武田さんによれば、「当初は本当にアーティストが有楽町に集まるのかという懸念もありました」。

冒頭で触れた「YAU STUDIO」は、審査を通過したアーティストが一定期間無料で利用できるアトリエであり、稽古場であり、交流の場。ありそうでなかったアーティストの居場所となるようなリアルな場をつくる試みは奏功し、現在までに300人以上のアーティストがYAU STUDIOを利用している。

「すでにキャリアのあるアーティストは、例えば舞台なら、専有の稽古場で集中的に稽古をするのが普通です。でもここはオフィスビル。大きな音を出せないなどさまざまな配慮が要求されます。なので、実際にYAU STUDIOを利用しているのは若いアーティストですね。

彼らは普段、公民館などをジプシーのように転々としているので、一定期間毎日自由に使えて稽古に集中できる環境はすごく貴重。結果的に、若くて、YAUと親和性が高そうな実験的な試みをしたいアーティストが集まってくれました」(武田さん)

実験的なプログラムであるため、走り続ける中でチューニングをし続ける。2022年2-5月のYAU第一期では「アーティスト単独では街との共創が立ち上がりにくい」との気づきを得たことから、22年6-8月のYAU第二期ではアーティストとビジネスパーソン、アーティストと企業を「つなぐ」役割を担うキュレーター、アートマネージャー、コミュニティマネージャーに参加を呼びかけた。そのうえで、彼らが交わるコミュニティを形成しようと先述の「YAU SALON」と名付けたトークッションや交流会を定期開催したり、コワーキングスペースをオープンしている。

「コワーキングの登録者は今30~40名ほど。特に広く告知したわけではないのですが、人から人へ伝播しYAUに共感し、アーティストと何かしたい、この場所で自分の活動をプレゼンしたと考えている人たちが集まり積極的に使ってくれています。

かといって、すでに完成された企画を持ち込まれても、それは他の場所でもできますよね、という話になる。どのコンテンツにおいてもそうなのですが、YAUでやる意味や、そこにいるアーティストと一緒に何ができるのか、考えるようにしています」(金森さん)

YAU内の一角。アトリエがあったり創作に励む人がいたり各々が自由に活用する

短期的な利益を追わず、アウトプットを試行錯誤し続ける

中森さんの言葉通り、YAUはプロジェクトでありビジネスではない。「プロジェクトの継続のためYAUを組織化する予定はあります」(中森さん)とはいうものの、現時点で明確なスケジュールがあるわけではない。アート×ビジネスの化学反応を生み、実験し続けること自体に価値がある。

短期的に見ればおそらく、より多くのビジネスパーソン、「つなぎ手」が集まることで、創作の機会を求めてより多くのアーティストが有楽町に集まることになろう。だがこれらを達成するべき成果として追求しすぎれば「無理が出る」とも中森さんは話す。

「短期的に利益を上げることを目標にしないからこそ実現できることがあると思います。YAUは実験的なプログラムであり街づくりです。

ビル単位での収益だけではなく、エリアとしてどう価値を高めることができるか、ということを長い時間軸でみたときに、今YAUで取り組もうとしていることが、ほかにはないアート×ビジネスの実践になり、それを体現するハード・ソフトとなって現れたり、そのベースになったりすると捉えて取り組んでいます。

この有楽町でしかできないアウトプットは何か試行錯誤し続けることがYAUの役目ですね」(中森さん)

(プロフィール)
中森葉月(なかもり・はづき)
三菱地所株式会社 プロジェクト開発部有楽町街づくり推進室チーフ。大学で美学美術史学を学んだ後、出版社にて5年間勤務。フリーランスで編集・ライターを経て、2021年より現職。有楽町を中心に「有楽町アートアーバニズムプログラムYAU」等アーティストの取り組みをサポートしている。

武田知也(たけだ・ともや)
舞台芸術プロデューサー。一般社団法人ベンチ代表理事。1983年横浜市生まれ。NPO法人アートネットワーク・ジャパン、国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」の立ち上げ・制作統括、ロームシアター京都開設準備室の事業・企画担当、「さいたま国際芸術祭2020」キュレーターなどを経て、2021年5月より現職。舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)副理事長。玉川大学芸術学部演劇・舞踊学科、法政大学キャリアデザイン学部キャリアデザイン学科非常勤講師。

金森千紘(かなもり・ちひろ)
アートマネージャー。大学で建築を学んだ後、美術書の企画営業、ポラロイドフィルムの再生産プロジェクトに従事。現代美術のギャラリーに勤務後、現在は、フリーランスでアーティストのマネージメント、展覧会企画、演劇の制作などで活動。

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