■連載/阿部純子のトレンド探検隊
「8つのくらしのコンセプト」によるプロダクトブランドを設立
カインズは1978年に栃木に1号店をオープン、店舗数を拡大し、約30年が経過した2007年に「SPA宣言」を出してオリジナルな商品への開発に舵を切った。2018年にはIT 技術を活用した快適な購買体験の実現を目指す「IT小売業宣言」を出すなど、ホームセンターの枠にとらわれない様々な取り組みを展開してきた。
2023年にはカインズグループの傘下になった「ハンズ新宿店」がオープン。そして新たに
佐藤オオキ氏率いるデザインオフィス「nendo(ネンド)」と協業して、新たなプロダクトブランドの開発、商品開発体制の刷新といったリブランディングを発表した。
「お客様のくらしが多様化する中、これからもお客様のニーズに応え続けていくために、5年後、さらには10年後を見据えたものづくり、組織づくり、そしてブランドづくりをnendoさんと一緒に進めていきたいと考えています。
第一弾として取り組んだのが商品開発体制の刷新。これまでの商品開発は、お客様のニーズや、売れ筋の商品などを踏まえたうえで個人が企画立案し、バイヤー、マーチャンダイザー、事業部長という縦ラインの中で意思決定をしていくプロセスが中心でした。
この開発体制は、お客様のニーズを迅速に捉えて商品開発や商品の改良に結びつけていくスピード感というメリットがあり、カインズがより良いオリジナル商品を提供できた原動力になっていました。
一方でこの商品開発体制には、個人の力に頼るが故に知見や技術がなかなか蓄積されにくい、あるいは商品が単発での展開になってしまうといった、横断的な情報共有がなかなか難しいという弱点がありました。
リブランディングにあたり商品の開発体制を新たにして、生活シーンからお客様のくらしにおける課題を抽出し、我々の開発テーマに落とし込んでいくプロセスを取り、より面的な考え方の商品開発を実現していきたいと考えています。
これは従来の縦中心の開発と比べると、品番、カテゴリー、事業部を超えてお客様のライフスタイルを重視したカインズらしい商品開発が可能になります。
ただ、従来の開発体制を完全に変えるのではなく、今までやってきた個人による立案というカインズの強みを生かしながら、より横断的な開発ができる、チームによる立案+横の意思決定プロセスという新しい体制と組み合わせたハイブリッドによって、商品開発をさらに進化させていきたいと考えています」(カインズ 代表取締役社長 CEO 高家正行氏)
新たな商品開発の起点となるのが、「8つのくらしのコンセプト」を元にした、プロダクトブランドの設立。
くらしを「支える」~CAINZブランド、日々のくらしを「楽に」~CAINZ STYLE、日々のくらしを「すこやかに」~CAINZ FIT、くらしを自分らしく「クリエイティブに」~CAINZ MAKE、
いつものくらしに「プロの視点を」~CAINZ IZM、職人さんの一日を「よりよいものに」~CAINZ PRO、“うちの子”とのくらしを「心地よく」~CAINZ PET、自転車をくらしの「パートナーに」~CAINZ CYCLEの8つで構成。プロダクトブランド第1弾として、CAINZ STYLEが2024年の4月にリリースされる予定。
商品開発も8つのコンセプトを踏襲。カインズの主力商品のひとつであるフライパンも、従来は安くてデザインも良くかつ機能的なフライパンを開発してきたが、これからは8つのくらしのコンセプトという視点で開発を進めていく。
「日々のくらしを楽にする」コンセプトでは、焦げ付きにくく楽に洗えるようなフライパン、「日々のくらしをすこやかに」のコンセプトでは余分な油をカットするようなフライパン、「いつものくらしにプロの視点を」のコンセプトではシェフのおすすめの鉄のフライパン、「自転車のくらしをパートナーに」のコンセプトでは屋外でも使えるスキレット、というように8つのコンセプトに基づいて開発を進めていくことで、幅広く多様な価値を提供できるとカインズでは考えている。
売り場も変化し、「ハンズ新宿店」では従来の店舗とは異なる8つのくらしのコンセプトをベースにした売り場作りがスタートしている。