ストライキの影響
今後ストライキが長期化することで映画業界にどんな影響をあるのか、いくつか想定されるポイントを挙げていきます。
(1)映画の公開イベントに俳優が来ないことで、興行収入が減少する
(2)映画の制作スタッフが職を失う→損失4000億円以上ともいわれる
(3)映画出演の俳優や脚本家の仕事が減少する→健康保険に加入するために年間2万6000ドルの報酬が必要であり、特にエキストラや無名俳優を守るためにストライキをする必要がある。
(4)動画配信のサブスクサービスの値上げの可能性がある
特に(4)の場合、ストライキが予想以上に長期化すると、新たな作品制作が滞るため、既存の作品の版権の奪い合いになる可能性があり、作品価格が高騰すればダイレクトにサブスク動画の料金に反映される可能性が高いでしょう。
米国で上場している主な映画関連企業の株価
【Walt Disney Company (DIS)】
ディズニーは映画制作、テーマパーク運営、メディアネットワークなど幅広いエンタテインメント事業を展開しています。そのほかにも、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズなどのブランドを所有しており、映画産業における重要なプレイヤーです。
ディズニーは連続増配を続ける配当銘柄としても人気でしたが、新型コロナウイルスの影響により、配当の支払いを中止しました。その後、2023年9月現在まで配当を再開していません。
この状況は、株価が低迷している一因とされています。
しかし、2023年2月にCEOのボブ・アイガー氏は、2023年末までには配当を再開する意向を公表しました。実際に配当が再開されれば、投資家の資金が集まることが予想されます。
株価 81.58ドル(9/11日付) 配当利回りなし
【Netflix, Inc. (NFLX)】
Netflixはオンデマンドの動画ストリーミングプラットフォームを提供しており、独自の映画やテレビ番組の制作・配信も行っています。Netflixはストリーミング分野で急成長しており、映画産業にも影響を与えていますが、ストライキが長引けば料金を値上げする可能性もあるでしょう。
株価 442.80ドル(9/11日付) 配当利回りなし
【Amazon.com, Inc. (AMZN)】
アマゾンは「Amazon Prime Video」を通じて、映画とテレビ番組のストリーミングを提供しています。また「Amazon Studios」を通じて独自のコンテンツ制作も行っています。
アマゾンは動画配信以外にもクラウドサービスの「AWS」や「Kindle」、「Echo」など、さまざまなサービスを展開していることから、ストライキの影響を受けにくいこともプラス材料です。
株価 138.23ドル(9/11日付) 配当利回りなし
【Sony Corporation (SNEJF)】
ソニーは映画制作、映画スタジオ(ソニー・ピクチャーズ)、ゲーム(PlayStationブランド)、音楽(ソニー・ミュージック)など幅広いエンターテインメント事業を展開しています。
ストライキによって売上は減少しており、今後、ストライキの動向をどのように株価に反映されるのか注目です。
株価 84.70ドル(9/11日付) 配当利回り 0.70%
【Paramount Global (PGRE)】
パラマウントグローバルは、パラマウント・ピクチャーズを含む映画制作スタジオ、CBSネットワーク、MTV、コメディ・セントラルなどを傘下に持つエンタテインメント企業です。
またParamount +(パラマウントプラス)というストリーミングサービスを展開しており、ストライキの動向によっては料金が値上がりする可能性もあるでしょう。
株価5.12ドル(9/11日付) 配当利回り 5.18%
産業の未来に向けた新たな視点
ハリウッドのストライキと労使交渉は、映画産業における労働者と企業の間で重要な課題を浮き彫りにしましたが、こうした状況から、映画産業の未来に向けた考察をしてみましょう。
まず、AIの活用についての争点は、映画制作における技術の進化とクリエイティブなプロセスの調和を模索する重要な機会でもあります。
AIが新たなアイデアを提供し、脚本家や制作者の創造性を刺激する可能性があります。
その一方で、AIの使用が職の喪失や盗作のリスクをもたらすことへの懸念も理解できます。
この点での労使交渉は、技術とクリエイティブの両立を探る道を開拓する重要な分岐点といえるでしょう。
また、視聴データの透明性向上によって、クリエイターたちは自身の作品の評価をより客観的に把握できるようになるかもしれません。
これは公平な報酬体系の構築に寄与する可能性があります。
ハリウッドのストライキも映画になる日が来る
最後に、私たちが忘れてはならないことは、映画は文化的な影響力も持っていることです。
ときに映画は社会問題や価値観に対する議論を喚起し、新たな視点を提供してくれます。
こうした文化的な役割を果たすためには、クリエイターと企業の間での協力と対話が不可欠です。
そして近い将来「ハリウッドのストライキ」そのものが、映画の題材になる日もやってくるのではないでしょうか。
文/鈴木林太郎