ドライバーにとって一番重い荷物は「空気」
――改めて振り返ると、私達の生活は物流に支えられています。それなのになぜか、物流関連労働者の社会的地位は上がっていません。「送料無料」に喜んでいましたが、実は失礼千万な話だったのだと反省しています。
橋本さん トラックドライバーはただ「荷物を運んでいるだけ」と思われがちですが、荷物の積み降しもドライバーの仕事にされるケースがほとんどで、さらにそれが荷主の指示でフォークリフトなどではなく、手でひとつひとつ積み下ろしせねばならないことがあります。
「某大手運送企業で、東京発大阪行きの荷物を一つ一つ手で5000個、運んでいました」とか、「ジャガイモなら10キロを1200ケース、レタスや白菜なら800~1000ケース手で積みます」という人。「コンテナの場合、30キロの米袋、800個を手荷役してました」という話を聞きました。
また、今年も猛暑で厳しい夏ですが、炎天下の中、20キロ近い一斗缶を1000缶積み下ろすという、過酷な作業をしているドライバーもいます。また、夏に売れるアイス類は絶対に溶かしてはいけないので、より迅速な搬出入が求められます。冷凍倉庫を出入りすると大気温との差が60度になることもあり、自律神経を壊したり、腰が痛みやすくなってしまいます。
ドライバーが運ぶ、いろいろな荷物にそれぞれの苦労がありますが、個人的に一番印象に残っているドライバーの答えは「一番大変なのは空気」です。ドライバーの給与体系の多くは歩合制で、荷物を積んで走った分だけ給与となりますから荷室が空だとお金になりません。何も運ぶものがない、つまり運んでいるのが空気だけ、ということが一番ダメージが重いということになります。
荷物のうち、宅配が占める割合はわずか7%以下
――物流の2024年問題が話題となっていますが、「これまで気軽に宅配サービスを使ってきたけれど、従来通りに運ばれなくなる」という認識でした。
橋本さん 「働き方改革」により、ドライバーの長時間労働が規制され、宅配に深刻なダメージを与えると思っている人が多いでしょう。でも、2024年問題の本質は宅配ではなく、企業間輸送の問題だと私は考えています。
日本で運ばれている荷物のうち、宅配が占める割合はわずか7%以下です。問題は企業間輸送です。「2024年問題は宅配で語るな」というのが私の意見です。
そして、2024年問題の解決は人手不足の解決しかありません。慢性的な人手不足の上に、働き方改革で労働時間を減らされるわけですから、問題はかなり深刻です。国や有識者、業界団体も解決の道を探っていますが、現場を知らない人の間違った解決法が多く見られます。
今回、私は新刊書で1)トラガール促進プロジェクト、2)外国人ドライバー増加、3)制限速度の引き上げ、の3つ愚策をあげて、(行政などが)いかに現場を知らずに問題解決を行おうとしているかについて、紹介しました。なぜこの3つが問題の解決にならないか、その理由もきちんと書いているので、ぜひ読んでみてください。