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レガシー産業のDXによって生まれる、実店舗を軸にした新しい「リテールテックビジネス」の可能性

2023.07.21

プライバシー保護に対応するAIカメラの情報収集

LMIのビジネスモデルで、店舗内外のデータを収集するために重要な要素なのがAIだ。カメラに映ったものを判定・識別することにAIを活用。現在採用しているAIカメラなどハード面は、スタートアップなどの既存企業の製品を導入しているという。

「AIカメラなどの機材については、どこのメーカーが一番強いか日進月歩でいろいろな技術が生まれて変化しているので、それを効率よく活用しています。AIカメラを自社で作ろうとした時代もありましたが、いまは各社でそれほど性能差がなく、カメラに映ったものを検知するアルゴリズムも方法自体はあまり変わっていません。機材は店舗にマッチングできるかを考えて採用しています。DX化の苦労については、LMIではすでにある技術を組み合わせて新しいビジネスを構築しているので、技術の壁よりも社内外の意識の浸透の壁の方が大きかったです。世の中のトレンドを見てもいずれデジタル化されるのは確実だったので、覚悟を持ってDX化を推進しました」(永井氏)

DX化の壁に関しては技術的なことよりも社内の職人の意識改革や取引先の理解など人的な要素の方が大きかったと語る永井氏。

リテールテックビジネスでは、コロナという向かい風も大きかった。コロナ禍で店舗に顧客が訪れることが極端になくなり、店舗ビジネス自体がストップするなどで経営的に苦しい時期もあったという。一方で現在は街に人が戻ってきてリアル店舗でのデータ収集と活用のニーズは大きくなっているという。 

「コロナ禍を通じて、店舗側に人流が少ない中でひとりでも多くお客さんを獲得しなければいけないという意識が高まって、人流が戻ってきても顧客に対して少しでも多く成果を上げるという意識は強くなっています。コロナ禍を経てデータ分析と反映がよりスタンダードになってきて、店舗運営をしている人たちもAIカメラを導入するメリットがわかっている時代になっていると思います」(永井氏)

LMIのAIカメラ活用は、年令と性別を推測し、カメラの前を通過した時間、サイネージの方向を向いた人の数、サイネージを見ていた時間などのデータ収集を担当。AIでカメラに映ったものを人間かそうでないか、年齢と性別などの特徴を判定してデータ化することに利用され、データ分析自体にはAI活用していないという。プライバシー保護の観点からもAIカメラの利点があるという。

「AIカメラによるデータ収集は、顔写真などの画像をそのまま保存しているわけではなく、端末で判別して必要なデータを収集したら顔データなどは削除する方法になっています。スマートフォンでカメラを立ち上げて前の人に向けたらマーキングが出てきますが、そのままマークを外したらシャッターを押してないから写真は何も残ってないのと同じ考え方です。AIカメラで個人情報を取得せずに人物認識できることを進めていけば、個人を特定せずにどこでどんな広告を見ていたかなど興味を持っているものに対するデータがより深く取れるようになり、リアル世界の人流のデータがより精度高く取得できるようになると思います」(望田竜太副社長)

AIの現状について望田氏は次のように語った。「文字や音声の入力や認識、さまざまな生成系が発展している印象で、特にLMIと関連する部分では画像生成AIがクリエイティブと広告効率化を高めると思います。ただAI技術者が文字・音声の分野に集まっていて、映像の認知・解析などにはなかなか集まっていないようで、技術精度の上がり方が他ジャンルに比べると弱いなと感じています。それは今後の課題です」

より多くに訴求するリテールメディアを実現していく

LMIではリテールテックからさらに進んだ取り組みとして、ウェブ3.0の世界的企業「アニモカブランズ」と資本提携し、NFTやブロックチェーンの技術を導入していくという。

「ウェブ3.0領域は、日本では実装レベルまで進んでいないのが現状です。まだ構想段階ですが、リテールメディアのコンテンツにIPやNFTが組み込まれるイメージはあります。今後はデータを収集する時に個人情報の許諾を取っていく形になり、特定の人たちがデータを所持するのではなく、それぞれウォレット的な形で持ち合って、その時のデータ管理の仕組みにウェブ3.0やブロックチェーン的なものが採用される形になるのかなと思います」(望田氏)

さらに「企画・実装・評価」のサイクルを回して、データを活用した空間作りの強みを活かすようなリテールメディアを広げていく新しい場も展開していきたいという。

「今後はLMIでもリテールメディアを運営していきたいと考えています。ウェブの世界では、さまざまなサービスを横断して数字的に大きな人数に向けて発信できます。1社ではできないものに対して、さまざまな店舗や場所に向けてリテールメディアを発信していくことで、リアル世界でも横断的に情報発信できると考えています」(永井氏)

コロナを経て街に人流が戻った今、リアル店舗の運営は大きな変化を迎えているといえるだろう。そして的確に顧客へ訴求するデジタルサイネージや店舗での人の動きをデータ化して収集できるAIカメラを導入する小売店はさらに増えることが予測される。AI技術やウェブ3.0と結び着くことで、実店舗を軸にしたリテールテックビジネスはこれからも進化を続けていきそうだ。

LMIグループ

取材・文/久村竜二

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