中国全土でナンバーワンのインフルエンサー(Weibo旅行関連)でもあり、リアルな中国を撮影し続けていることでも知られているドキュメンタリー監督・竹内亮さん。5月19日から東京都内で「竹内亮のドキュメンタリーウィーク」が開催される。新作『再会長江』は、タレント・小島瑠璃子さんがナレーションを担当し、イベントに登壇することも話題だ。
「中国に移住して約10年です。日本では報道されない“中国の素顔”に驚くはず」という竹内さんに、この後編では、中国の最先端都市・深圳(シンセン)から、少数民族の生活、『再会長江』の撮影秘話について、お話を伺った。
中国No.1インフルエンサーの竹内亮さんに聞く、日本では報道されない〝中国の素顔〟
中国全土でナンバーワンのインフルエンサー(Weibo旅行関連)でもあり、リアルな中国を撮影し続けていることでも知られているドキュメンタリー監督・竹内亮さん。5月...
「今の中国」がわかる長江を巡る旅
――前編では、中国のビジネスのスピード感、ここ10年間の意識変化などについて伺い、日本で報道されている中国像とは大きく違うことがわかりました。今、日本の経済力や国際的な影響力、加えて技術開発力も、中国に大きく水をあけられていることは多くの日本人が感じています。
コロナ禍を経て、さらに中国は進化していると思います。ビジネスの最前線を知るにはどこに行けばいいのでしょうか。
中国版のシリコンバレーと言われる深圳(シンセン)です。ここはもう圧倒的に日本とは異なる近未来的な社会とも言えるでしょう。
テンセント、ファーウェイやシャオミ、世界1位のドローン製造企業・DJIほか、日本でも知られる企業や、その他多くのIT関連企業が林立しています。
また、世界最大級の電気街・華強北路もあり、世界中のメカニック好きを惹きつけています。街全体がIT化しているのも特徴で、空港のチェックインは何年も前から無人ですし、最近は無人運転のタクシーも登場したそうです。この街にいると、そこにいる人々の、先進性や国際感覚が伝わってきます。日本人の起業家も多く、「外国人が起業するのが簡単な街」としても有名で、どのエリアにもないパワーがあります。
深圳出身の人はほとんどいないので、縁故主義ではなく、実力勝負。20~30代が多く、さまざまな新しい取り組みが行われています。社会実験として、さまざまな新しいサービスが行われており、観光客として訪ねても、その柔軟な発想と果敢な挑戦に、さまざまヒントを得られるはずです。
この3年間、日本のメディアも取材に来れず、今の中国がどうなっているかは多くの人が興味を持っていることは伝わってきます。僕の作品群を見ていただき、さらに深圳を体験すれば、「今の中国」がわかると思いますよ。
――そんな最先端を知ってから、『再会長江』や『大涼山』での少数民族の生活を見ると、同じ国なのにこんなにも違うのかと感じます。
10年前まで、道がないからロバで移動し、水道も電気もなかった……というエリアも撮影していますからね。
そういうことも含めて、『再会長江』は日本の皆さんにぜひ見ていただきたいのです。僕がたどった、6500kmの長江の「最初の一滴」は、チベット高原の氷河です。
ここは黄河、長江、メコン川、アムール川の水源でもあり、人々に農作と恵みをもたらしてきました。
ただ、水源地は人間が踏み込めない標高5000mにあります。気温はマイナスになり、酸素も薄い限界地域で、地表は当然、凍っています。撮影時、この水源に行く途中に車がスタックしてしまったんです。数百km四方に人は一切いませんし、電波もつながりません。
最初は凍土でも溶けている部分に埋まっただけでしたが、午後になると太陽が出て土が溶け、温度の上昇に伴い、車も沈んでいくという絶体絶命の状態です。酸素も薄く、ガソリンや食料にも限界があります。
極限状態で移動手段の車が機能しないのは、死を意味します。といっても、今、ここにいるんで生きて脱出したんですけれど、その方法は……ぜひこれは、映画を観てください(笑)。
でも、今思い出しても、ゾクッときますね。僕は楽観的な性格なのですが、あのときは初めて死を覚悟しました。その時に最初に思い浮かんだのは妻の顔でした。不思議なもので、親や子供よりも妻だったんです。妻の偉大さを感じました。
――映像は日本人向けに編集したと聞きました。
長江は歴史の舞台でもあり、日本人におなじみの『三国志』の聖地巡礼にもつながっています。映像は上海から始まり、南京・武漢・重慶……と進んでいく。意図的に、三国志の舞台も入れています。
例えば、208年の赤壁の戦い(湖北省咸寧市赤壁市)の古戦場も紹介します。ファンの方は「ここで曹操軍と孫権・劉備連合軍の戦いがあったんだ」と思うはずです。
逆に中国で公開した『再会長江』は、チベット高原からスタートし、最後は上海で終わります。つまり、真逆のルートでの編集をしているんですね。
――そうか、現地の人は、なかなか行けない秘境だから惹きつけられる。日本人は、秘境を最初に見せられてもわからないので、親しみやすい大都市・上海からスタートする。
そうなんです。相手の知識や好奇心をおさえ、そこからわかりやすく編集することを重視しています。
『長江再会』は、中国の素顔を紹介する作品でもあるので、中国の国民も知らないことが多いですし、中国外の人々は、中国に対する偏見や誤解も溶けると思います。
日本人の常識では中国は語れない
――日本人も中国に対して、「言論が封鎖される自由がない国だ」と思っている人が多いです。
僕も、そういう話は聞きます。「検閲を受けてから上映するんでしょ?」などと質問されることもありますが、結論から言うと、中国に検閲はありません。というより、コンテンツの数が多すぎてすべて確認することは無理です。
確かに政治に関しては発言に制限があり、抵触した場合は「プラットフォームから削除してください」という依頼が来るそうですが、僕は一度も注意を受けたことはありません。意外に思うかもしれませんが、日本のような言論の自主規制もありません。かなり自由なので、のびのびと仕事をしていますし、人々も自由に生活しています。今、僕は日本にいますが、逆に「日本は窮屈だな、不自由だな」と思うことが多いです。
それは、空気を読まねばならないから。その場の雰囲気に即した言動をしなければならないという、暗黙のルールを感じるからです。これは余談ですが、中国の企業を取材していると、部下が上司の悪口をカメラの前で言うこともしばしば。日本ではそんなこと、絶対にありえませんよね。
――私たちは、日本の常識や考えで中国の報道を捉えていたのかもしれません。
そういう双方の誤解はありますよ。
日本の報道は、「中国は強権主義の独裁国家だ」という報道をしますし、中国のメディアも批判的な目で日本を報じるところがあります。例えば、例えば日本では高齢者雇用が活発で、70代になっても働いている人が多いというニュースです。
中国では若い時にしっかり働き、40代でリタイアする人も多くいます。基本的に高齢の方は働きません。だから、日本で高齢の労働者が多いというニュースを、「高齢者を働かせるひどい国だ」というトーンで紹介するのです。
でも、日本では、一生働きたいという人も多く、「年齢を重ねても働くのは素晴らしい」という考え方が強いです。お互いに文化を知っていれば、誤解は生まれないとも思います。
日本では、中国の若者の雇用難などについても報道されますが、20~30代の給料が高いことを知る人は少ないです。普通の会社員でも月収は高く、手取りが 日本円で50~100万円以上という人も多いです。だから、日本人の中国企業への就職希望者も増えています。単に待遇面だけでなく、新しい試みができ、評価されるからです。国に勢いがあり、日中は今後も協力していくと、もっといい社会になるはずです。
それなのに、中国も日本も、お互いの国の軍事訓練や閲兵式の映像をイメージ画像としてよく使っているんですよね。報道をうのみにせず、さまざまな情報源を知ることで、双方の理解が深まります。僕はその架け橋になりたくて、自分を華僑ならぬ「架僑」と称しています。
――これから竹内さんが撮りたいテーマはなんですか?
中国も日本と同じく、急速に少子化が進んでいます。前編で少数民族の女性が「一生結婚したくない」と語った話をしましたが、多くの若者が結婚と出産をしたがらない。
だから、僕は今、子供を産むことを決意した人たちに「何で子供産むんですか?」と質問しながら、作品を撮っています。
子孫を残すことは、生物の本能……人類史上、「なんで、産むの?」と質問した人は少ないと思うんです。時代は変わってきているので、その当事者に話を聞いています。
あと、今、日本が好きな中国人に向けて、キャンピングカーで北海道から沖縄まで旅をする撮影が進行中です。北海道から沖縄まで、アバウトな長さが2200㎞。長江の約1/3ですね。その豊かで濃厚な文化を撮影します。
キャンピングカーにしたのは、日本のアウトドアの良さを中国に紹介したいという狙いもあります。今、中国では空前のアウトドアブーム。日本の優れた製品とともに、日本のあざやかな自然の変化を紹介すれば、きっと日本の人気が底上げされると思っています。
竹内さんが目指す世界は、中国と日本が手を取り合って発展していく未来だという。コロナ禍を経た今、竹内さんの作品群を見れば、きっと「気付き」を得られるはずだ。
「⽵内亮のドキュメンタリーウィーク」
2023年5⽉19⽇~25⽇「⾓川シネマ有楽町」にて4作品を上映
https://www.wanoyume.com/jp/takeuchi-ryo-documentary-week
約6300キロの大河・長江を源流までたどった『再会⻑江』。コロナ禍の武漢を3年間独自取材した『お久しぶりです、武漢』。四川省の山奥の最も貧しい地域で少数民族の生活を追った『⼤涼⼭』。3年の密着取材で最先端企業の活動に密着した『ファーウェイ 100 ⾯相』 を公開。19日の『再会長江』の初回上映には小島瑠璃子さん登壇、それ以後のすべての回でも上映後にトークイベントが入り、様々なゲストも参加する。
<ゲストリスト(50音順)>
阿部力(俳優)/熊江琉衣(モデル・タレント)/小島瑠璃子(タレント)/周来友(ジャーナリスト)/朱建栄(大学客員教授)/徐静波(ジャーナリスト)/段文凝(中国語講師・タレント)/中国女子の呟き(インフルエンサー)/陳淑梅(大学教授・NHK テレビ中国語ナビ講師)/富坂聰(大学教授)/東京大明白(動画クリエイター)/むいむい(YouTuber・通訳MC)/山下智博(プロデューサー)/ヤンチャン(YouTuber)/李姉妹(YouTuber)
竹内亮(たけうち りょう)/1978年生まれ。ドキュメンタリー監督・番組プロデューサーとして、多くの映像を制作。2013年に中国人の妻と中国に移住し、翌年南京市で映像制作会社「和之夢文化伝播有限公司」を設立。2021年Newsweekの「世界が尊敬する日本人100」に選出。同年、江蘇省人民対外友好協会から“江蘇省人民友好使者”杯受賞。2023年Weiboの微博红人节(インフルエンサーアワード)で、「2022年度 最も商業価値の高いインフルエンサー」「2022年度 トップ動画クリエイター100」等に選ばれる。文化人として中国の人気トーク番組などの出演多数。中国で絶大な人気を博している中国在住日本人。YouTubeチャンネル『竹内亮の中国ここだけの話』などで日本人向けにも情報発信をしている。
取材・文/前川亜紀 撮影/ANZ