アクアポニックスとは、水産養殖と水耕栽培を掛け合わせた循環型の農業システム。世界の資源不足の地域で先行してきたが、日本でも近年、注目を集め始めている。新規事業として導入を検討する企業も増えている。どんな仕組みなのだろうか。
魚、微生物、植物の生態系を活かした養殖と野菜栽培
アクアッポニックス(aquaponics)は水産養殖(aquaculture)と水耕栽培(hydroponics)を掛け合わせた造語。水産物の排泄物を植物の栄養分として利用し、魚も野菜も生産する仕組みだ。
もともとは水資源が少ない島や土壌が栽培に適さない地域に導入された農法で、1980年代からアメリカやオーストラリアなどで広まりだした。持てる資源を最大限有効に使えるよう考案された農法であるため、必然的にエコな仕組みであり、2015年くらいから世界的に注目されはじめている。2015年はSDGsが国連サミットで採択された年である。
魚の養殖水には、植物の栄養になる有機物が含まれている。その養分たっぷりの水が野菜畑に流れて無農薬・無化学肥料の水耕栽培が行われる。野菜畑を通過した水はまた養殖水槽に戻される。魚、微生物、植物の3者が育む自然な生態系を人工的に再現している。
2014年に創業した日本初のアクアポニックス会社、株式会社アクポニによると、土耕農法と比べて、野菜は同面積で約7倍の収量、使用する水は約80%で済むという高い生産性と節水性を特長とする。
アクアポニックスの循環の仕組み 提供:株式会社アクポニ
栽培される野菜はレタスやコマツナ、ハーブなど葉物が多い。養殖される魚は淡水魚だ。
新規事業になるか? 遊休地の利活用にも副業にも
アクポニはアクアポニックス農場の開発、導入支援、研修事業などを行っているが、見学者が目に見えて増えてきたのがこの2年ほどだという。
「2022年の問い合わせ件数は前年比の200%以上に急増し、当社で施工した農場は過去2年で30を越えています」とアクポニの濱田健吾代表。今年は個人からの問い合わせも増えているという。
株式会社アクポニの代表取締役、濱田健吾さん。2014年に“アクアポニックスで地球と人をHAPPYに”をビジョンに起業。宮崎県出身で、子どもの頃から魚を釣るのも食べるのも大好き。神奈川県藤沢市の農場にて。
アクポニの農場(神奈川県藤沢市)を見学に訪れる人には、中小企業のオーナーや大企業の新規事業開発の担当者が目立つ。その多くが第1次産業以外。つまりアクアポニックスは、異業種参入のハードルが低い新事業として注目されているのだ。では、アクアポニックスの何がそんなに魅力なのか。
まず、エコなシステムでSDGsの理念に合っていることに加えて、遊休地の利活用に向いている。今年3月に愛知県愛西市に給排水衛生設備業のアクアテックがオープンした「つなぐファーム」はそのひとつ。設計や施工監修をアクポニが行った。10年間使用されていなかった中古ビニールハウスを改修し、アクアポニックス農園に生まれ変わった。また、この農園は就労継続支援を行う会社と連携して運営されており、障がいを持つ人の自立を支援する「農福連携」事業としても注目されている。アクアポニックスは一般の農業と比べて、かかる手間が少ないことも特長だ。
また、今年になって急増している個人からの問い合わせに対して、アクポニは個人向けの研修コースを開設している。受講生は「副業として導入を考えている」人がメインで、「魚好き、野菜好きの人が趣味と実益を兼ねている」(濱田代表)というわけだ。
だいぶ注目度が上がってきたとはいえ、濱田代表は「知名度はまだまだ」という認識だ。今後の課題として「アクアポニックスで育てた野菜は無農薬・無化学肥料の有機ですが、まだ日本では制度上、“有機野菜”の認証を取ることができません。これをどうブランディングしていくか」を挙げる。
ビジネスユースだけではない。自宅でできる家庭用アクアポニックスも販売されている。ベランダや窓辺に水槽を置き、ペットのように魚を飼いながら植物の成長を日々目にできる。
「ウチはメダカとバジルを育てています。水槽にコケが生えることもあるので、コケを食べてくれるタニシも入れています」と話すのは、アクポニ広報の金田悠さん。魚は基本的に淡水魚だが、貝やエビなどの甲殻類も種類によっては入れられるので、小さなビオトープのように楽しめる。
家庭用「おさかな畑スクエア35L」32,780円。
家庭用「おさかな畑レクタングル25 L」32,780円。