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専門裁量労働制を悪用して部下を働かせ放題にした会社の酷すぎる言い訳

2023.04.20

こんにちは。

弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。

▼ この記事で分かること

・専門業務型裁量労働制って、なに?
・「職務手当が残業代だよ」って、とおるの?
・上司がヤリチン

裁判例を通して解説します。

会社
「ウチは専門業務型裁量労働制を採用しているから」
「何時間はたらいても9時間とみなされますよ」
職務手当7万円は残業代のことですよ」

裁判所
「シャラップ!」

約143万円の残業代を命じました。あと争点とは関係ないですが、上司がヤリチンでしたね。

▼ 注目!

この会社の真意は不明ですが、一般的にブラック企業では専門業務型裁量労働制を【定額はたらかせ放題】として悪用しているケースがあります。要件を満たさないのに「この制度を採用しているから残業代は出ないよ」と言っている会社があるので労働局や弁護士などに相談してみましょう。

以下、分かりやすく解説します(東京地裁 H30.10.16)

登場人物

▼ 会社

・広告代理店
・風俗情報ポータルサイトに風俗店の情報を掲載する広告代理業

▼ Xさん

・バナー広告を制作する仕事(制作部デザイン課に所属)
・女性

どんな事件か

Xさんの契約は以下のとおりでした。Xさんは退職後に残業代請求をしました。

バチバチに争われたのは太字の2ヶ所です。

専門業務型裁量労働制(10:00〜19:00を基本とし労働者の決定に委ねる)
・給料 22万5000円
 〈内訳〉
  基本給 13万円
  職務手当 7万円
  エリア手当 2万5000円

専門業務型裁量労働制ってなに?

漢字が多くてウザイんですが、これは「社員が自由に働いていい(=裁量がある)んだから、何時間働いたとしても●時間働いたとみなす(みなし時間)」という制度です


労働基準法第 38条の3

使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、労働者を第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第二号に掲げる時間労働したものとみなす。

一 業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この条において「対象業務」という。)


たとえば、みなし時間を7時間とした場合、10時間も働いたとしても7時間とみなされますし、3時間だけ働いた場合でも7時間とみなされます。

Q.
なんでこんな制度があるんですか?

A.
理念は「クリエイティブな能力を発揮する仕事は時間で縛らない方がいいでしょ」ってところにあります。何時に出社しようが何時に帰ろうが自由です。どこで仕事しようが自由です。

Q.
自由ですね。ていうか、3時間働いただけで8時間働いたとみなされるならサイコーじゃないですか!

A.
ぬるいです!営利を追求する会社がそんなぬるい状況を放置することはありません。法律上はそうなんですが、ブラック企業の目的は【馬車馬のように何時間働かせても●時間とみなして残業代を抑える】ことにあるんです。

★専門業務型裁量労働制を使えるのは、以下の業務だけです。


労基則24条の2の2②
①新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
②情報処理システムの分析又は設計の業務
③新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務
④衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
⑤放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
⑥ コピーライター業務
⑦ システムコンサルタント業務
⑧ インテリアコーディネーター業務
⑨ ゲームソフトの創作業務
⑩ 証券アナリスト業務
⑪ 金融商品の開発業務
⑫ 大学教授の業務
⑬ 公認会計士業務
⑭ 弁護士業務
⑮ 建築士業務
⑯ 不動産鑑定士業務
⑰ 弁理士業務
⑱ 税理士業務
⑲ 中小企業診断士業務


▼ どんな争い?

さてここからは両者の主張を見ていきましょう(判決文を会話風に再構成)

会社
「弊社は【専門業務型裁量労働制】を採用しています」
「Xさんの仕事は上の④広告等の新たなデザインの考案の業務にあたるんです」
「なので何時間、働いたとしても9時間とみなされます」
「Xさんの言うような残業代は発生しません」

Xさん
「私がやってた仕事はその専門業務にあたらないです」
「担当社員の指示に従って画一的な制作をしていたので」
「働いた時間分の残業代が発生します」

--- 裁判官、どうですか?

裁判官 「Xさんの言うとおりです。Xさんの仕事は④にあたらないですね」

--- どうしてですか?

裁判官 「専門業務型裁量労働制って、会社が細かく指示を出すのがムズかしくて社員が自由に仕事を進めた方がいいケースを想定してるんです。以下の条文にも書いています」


労働基準法第 38条の3

 業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なもの


裁判官 「で、今回のXさんの業務を見たんですが、自由度が低すぎます。理由をザックリあげると… 」

〈理由〉
 ・営業社員から指示を受けていた。
  大まかなイメージ、色、キャッチコピー、風俗嬢の写真など
 ・納期がタイトだった
  5営業日で納品。1日に10件くらいの広告を作っていた

裁判官 「以上の事実などをみると、Xさんの裁量(自由度)は限定的なので④にあたらないと判断しました。

--- ってことは8時間を超えた分の残業代を請求できるんですね!

裁判官 「そうです」

この職務手当、なに?

お次は、この職務手当、なに?ってことです。

▼ どんな争い?

両者の主張を見ていきましょう

会社
「残業代が発生するにしても職務手当7万円を残業代として払ってました」
「それを省いて残業代を計算してもらわないと」

Xさん
「職務手当は残業代として払われたわけじゃない」
「職務手当も基礎賃金に組み込んで残業代が計算される」

--- 裁判官、どうですか?

裁判官
「Xさんの言うとおりです。この職務手当は残業代とはいえない。なので基礎賃金に組み込んで計算します」

裁判官は、他の社員の賃金などもみて「賃金体系が不自然とういほかない」と指摘し、職務手当が残業代とすると90時間もの残業を見込んでいたこととなるなどとして、基本給部分と残業代の部分が明確に区別されているとは言えないと判断しました。

Q
明確に区別?

A.
一般的な話になりますが、以下のとおり。

○ OK例

○ 月給25万円(固定残業代 20,000円(10時間分)を含む)
○ 月給25万円(固定残業代 20,000円を含む)

× NG例(基本給組み込み型)

× 月給25万円(固定残業代を含む)
〈NGの理由〉  
 固定残業代はいくらなのか?何時間分の残業なのか?ということが分からねぇ
× 月給25万円(固定残業代3万円(月45時間分)を含む)
 残業代を時給換算すると…666円。最低賃金に届いてねぇ

コチラの記事に分かりやすく書いています。固定残業代で働かせ放題を強いられている方はご覧ください。

ほんで、なんぼ?

裁判官がソロバンをばちばちとはじいた結果、約143万円の残業代が認められました。

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