ジム・ロジャーズの投資手法
ロジャーズの投資手法にはいくつかの共通点があります。
たとえば1970年代、ロジャーズは世界中でエネルギー生産不足に直面していることに注目しました。当時、鉱業などの採掘業者は石油や天然ガスなどのエネルギーでは、利益を得られない問題に直面しており、企業はコストカットのためにリストラをしていた一方、世界中でエネルギー不足が深刻化していたのです。
ここでロジャーズは不足が続くエネルギーの価値が上昇していくことを見事に予測しています。また当時の米国はベトナム戦争の終結により、軍事予算が大きく削減されたタイミングでもあり、ここでロジャーズは誰にも見向きをされなかった軍事産業のロッキード社への投資を強く推しています。
この決断の背景には、ある事件が関連しています。
中東戦争が激化していた当時、これまでエジプト空軍は1度も撃ち落としたことのないイスラエルのジェット機を撃墜しましたが、そこにはエジプト空軍が当時のソ連から最新機器を入手していたことで性能が上がっていたことが理由だったのです。
それまで米国政府は一時的に軍事費を縮小していましたが、ロジャーズは米国が軍事力強化のために再び軍事費を拡大する可能性が高く、米国内の戦闘機機メーカーに問い合わせをし、将来の電子戦に備えた機器開発に注力している事実を突き止めたのです。
その後、ロジャーズの読み通り、米国は軍事費を増額させ、結果的にロジャーズがロッキード社の株を購入してから数年後に、株価は約100倍へと大きく上昇しています。
このことから、世界は常に変化しており、ロジャーズはそのなかの「大きな変化」を見逃さずに売買していることが分かります。つまり「投資対象」をあらかじめ限定してしまうことはせず、徹底的に自分で調べて投資をしているのです。
とはいえ、投資する上で最も大切なことは「世界の見方」ではなく「よく知っている分野で勝負する」ことです。どんな分野であっても、誰よりも詳しいからこそ僅かな変化に気付き、それが大きな変化を見逃さないことへ繋がっていくからです。
その上で、今は注目されていなくても、数年後に人気が出る可能性があるか、この視点に関してロジャーズは天才的な能力を持っているといえるでしょう。
これは多くの投資本に書かれている「市場分析」や「企業の財務状況」とは大きく異なり、ロジャーズは自身の日常生活で身近なものから、自分自身が詳しい分野に投資することの大切さを説いているのです。
また他人と同じように考えても投資家としては成功せず、非難されることは喜ばしいということや、政府こそマーケットに大きな影響を与える最大のプレイヤーであり、どんなときも注目し続けることの重要性を語っています。
ここにロジャーズが育んできた投資の黄金ルールが見えてくるのではないではないでしょうか。
ブラックマンデーを予測
1987年10月19日に米国株式市場で「ブラックマンデー」が発生しました。この1日だけでダウ工業株平均は22.6%も下落し、過去最大の大暴落が起きたのです。
ロジャーズは暴落を予見しており、多くの株を空売りしていたため、大きな利益を得たそうです。
ではなぜロジャーズはブラックマンデーを感じ取ることができたのでしょうか。
ここにも下記のようなロジャーズの相場観が見えてきます。
・相場を考えるには大局観が必要なこと
・新しく見える出来事も歴史の中で繰り返し起こっていること
つまり全く同じことは起こらなくても、根本的に人間の考え方や心理は変わらないので、たびたび歴史のなかで同じことが起きるということです。
ちなみにブラックマンデー前の株式市場は「1929年の暗黒の木曜日」と重なる条件がいくつもあったようです。
冒険投資家としての活動
世界を知るために、そして自分を知るために、ロジャーズはバイクと車でそれぞれ世界中を周り、このときの体験を書籍にしたことで「冒険投資家」とも呼ばれるようになります。
ロジャーズはそれまで投資を通じて世界を知っているつもりが、旅を通じて「現実」がわかっていなかったことを痛感したと発言しています。
また旅をして世界を知ることは、自国への理解を深めることにも役立つと語っています。
また冒険を通じてさまざまな人と出会い、訪れた国の経済の先行きを判断して投資も行っています。ロジャーズにとって投資とは資産を増やす手段にとどまらず、自分自身の存在証明でもあるのです。